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ねずみとへびとねこ
『ネズミと蛇と猫』

― 埼玉県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、むかし。
 あるところに家があって、ネズミが巣を作って暮(く)らしていたと。
 ある冬の日、一匹のネズミが縁の下を駈(か)けまわっていたら、突然足元の土が崩(くず)れて、つんのめって穴に落ちたと。
 「痛ててぇ」
といいながら穴を見まわしたら、穴は奥へ続いてる。

 
ネズミと蛇と猫挿絵:福本隆男

 「なんの穴だろ」
 ネズミが不思議に思うて穴をたどって行ったら、突き当りが広間(ひろま)になっていて、そこに柔(やわ)らかいものが沢山(たくさん)あった。噛(か)じってみたらウナギみたいにうまかった。腹一杯(はらいっぱい)食うても食いきれんほどある。みんなを呼びに行ったと。


 ネズミたちはそれを噛じって、一冬(ひとふゆ)の間(あいだ)食う物に困らなかったと。
 やがて春になって、その食い物が目を覚ました。動こうとしたがどうもおかしい。目ん玉動かして見たら、頭から下の体がなくなっていた。あっちにもこっちにも頭だけのがいっぱいいて、とまどうやら、びっくりするやらして、長い舌をシュウ、シュウとだしたりひっこめたりしていた。
 その食い物とは、蛇だったと。
 その穴は、蛇たちの冬ごもりの穴だったと。
 頭だけになった蛇の目の前をネズミが走って、蛇は、ようやく冬眠中(とうみんちゅう)に身体(からだ)が無くなった理由(わけ)が判ったと。
 「俺の身体を食うたのは、お前(め)だな」
というて、パクッとネズミを呑(の)みこんだ。
 呑みこまれたネズミはすぐに喉(のど)の下から吐き出されて、逃げて行ってしまったと。蛇は、
 「おのれ」
と怒ったが、追いかけることも出来ん。くやしがったと。


 ネズミに噛じられなかった蛇もいて、それが隣(となり)の蛇仲間(へびなかま)へ応援を頼(たの)みに行った。
 「冬眠から目ざめたら、ネズミたちに噛じられていて、みんな頭だけになっとった。仇(かたき)をとってほしい」
 「それは気の毒だった。よしわかった。にっくいネズミたちめ、皆(みな)呑み込んでしまえ」
 隣りの蛇仲間たちがたくさんやって来て、片っ端(かたっぱし)からネズミを呑み込み、仇討ちだと。


 ネズミたちが困って、みなして相談したと。
 このままでは、ネズミが絶えてしまう。何か、ええ思案はないか」
 「蛇はくねくねと動くから、蛇行(だこう)の逆へ逃げればいい」
 蛇が右へくねったらネズミは左へ跳び、左へくねったら右へ跳べ、ということになって、そのようにしたら大成功。ネズミは一匹も呑まれなくなったと。
 
ネズミと蛇と猫挿絵:福本隆男


 やれ一安心(ひとあんしん)と思うていたら、ネズミたちに、別のもっと恐ろしい心配ごとが出来た。
 チュウ、チュウ大騒(おおさわ)ぎをしたせいで、この家の人が、なんと、猫(ねこ)を飼いはじめたんだと。
 ネズミは一匹、また一匹と猫に捕(つか)まっていった。
 ネズミたちは、また集まって相談したと。
 「猫につかまらんようにするいい思案はないか」
 「あいつは暗くても目が見えるからなあ」
 「暗闇(くらやみ)で黄金色(こがねいろ)に光るあいつの目を、遠くに見つけただけで、俺なんか金しばりになってしまうくらいだ。


 今まで仲間が捕まったのは、猫の奴には俺たちがどこにいるのか判るのに、俺たちには猫の奴がどこにひそんでいるのか判らないからだ」
 「いっくら気をつけていても、奴は気配もたてないんだ」
 「いきなり襲(おそ)ってくるんだもんなあ」
 「猫がどこに居るのかわかれば一番いいのだがなぁ」
 「そういうことなら、ええことがある。猫の首に鈴をつければええ」
 「ンだな」
 「それがええ」
と、みんなが賛成(さんせい)したと。年長(ねんちょう)のネズミが、
 「ところでじゃ、猫の首に鈴をつけに誰(だれ)が行くかじゃがの」
というたら、みんな黙(だま)りこくって下を向いたままだ。
 だあれも鈴をつけに行く者はなかったと。

 
ネズミと蛇と猫挿絵:福本隆男

 それで、今でもネズミは蛇がくねる逆には逃げられるけど、猫にはやられっぱなしなんだと。
 おしまい チャンチャン。
 

「ネズミと蛇と猫」のみんなの声

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