― 埼玉県入間郡 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、むかし。
ある冬の寒い日に、漁師(りょうし)が氷に開けた穴から釣(つ)り糸をたれて、数匹(ひき)の魚を釣り上げたと。
「どれ、寒くもあるし、腹(はら)もすいたし、こんなところで、帰るとするか」
というて、橇(そり)に魚を乗せて帰ったと。
物陰(かげ)から狐(きつね)が見ていて、
「うまそうだなぁ、なんとかあの魚を食いたいなぁ、あぁ腹ペコで死にそうだぁ」
「死にそうだ、死にそうだ、おっ、そうだ」
いい思案が浮かんだ狐は、橇の少し先まで走って行って、死んだように道にうっぷした。
「ありゃ、あの狐なんだかおかしいぞ。よろよろしとる。おっ、倒(たお)れた」
漁師は帽子(ぼうし)を作るのに狐の毛皮が欲(ほ)しいところだったので、狐が死んだと思い、拾って橇にのせたと。
漁師はそのまま橇を引いて魚と狐を運んで行った。
狐は漁師が見ていないすきに、魚を一匹、そおっと持って橇からおり、森の中へ逃(に)げた。
森で、狐が盗(ぬす)んだ魚をくっていると、そこへ熊(くま)がやって来た。
「どこでその魚をとったんだい」
「釣ったんだよ」
「おれも、そんな魚をとってみたいなぁ」
「かんたんさ」
「どこで、どうやって釣るのか教えておくれよ」
「ああ、いいよ。この小径(こみち)を行くと川に出るよ。川に氷が張(は)っているけど、そこに漁師があけた円(まる)い穴があるから、お前の尻尾をその穴に入れておくと魚がかみつくよ。そしたら、魚と一緒に引き上げると釣れるんだよ」
熊は狐に礼をいって、よろこんで走って行った。
氷穴を見つけて、うす氷を足で破(やぶ)り、尻尾をたらした。
冷たいのを辛抱(しんぼう)して、魚のくいつくのを待っていたら、尻尾に何かつかまるような気がした。
「いまの感じじゃ、小魚だな。俺(おれ)の待っているのは大っきい魚だ」
といって、また、辛抱していた。
すると、こんどは強くつかまれた。
「うん、いまガキンと引かれたようだ。俺の尻尾につかまっているのは、大きな魚にちがいない。しめしめ、うまいご馳走(ちそう)が、うんと食えるぞ」
といって、尻尾を引き上げようとした。が、尻尾は引き上がらない。
「やぁ、これはことのほか大きい魚だぞ」
とよろこんで、今度は力まかせに尻尾を引っ張った。
そのとたん、ポキンと音がして、熊はもんどり打って前にのめり、氷の上に転がった。
熊が、なにごとがおこったのかと見ると、氷穴には、根元から折れ残った自分の尻尾が凍(こお)ってピンと立ってあったと。
熊の尻尾は、このときから短くなったそうな。
おしまい、ちゃんちゃん。
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昔、昔。雨コ降ってら日、一人の婆、山菜のミズ背負って町さ売りに歩いてたど。「居だか。ミズ えかったべしかあ。採りたてでンめぇどぉ」 って、家々まわったきゃ、「今日、まんず間に合ってらしじゃ」どて、断られたど。
「狐と熊(尻尾の釣り型)」のみんなの声
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