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いえぐるみでにじゅっせん
『家ぐるみで二十銭』

― 大分県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 昔、豊後(ぶんご)の国、今の大分県大野郡野津町(おおのぐんのつまち)の野津市(のついち)というところに、吉四六(きっちょむ)さんという、頓知(とんち)の優(すぐ)れたとても面白い男がおったと。
 その吉四六さんが、ある日、馬に荷を積んで売って歩いていたのだと。
 餅(もち)屋の前まで来たら、そこの親父が吉四六さんに、
 「こん荷は、馬ぐるみでなんぼな」
ちたずねたと。
 「五十銭(せん)」
ち答えたら、餅屋の親父は、
 「そら安い、買(こ)うた」
ちいうて、五十銭、吉四六さんに渡(わた)しち、馬も一緒(いっしょ)に引っぱって行こうとした。

 
 吉四六さん、たまげて、
 「なし、おれん馬を引いち行くんな」
ち言うたら、
 「今、馬ぐるみ五十銭言うたきい、五十銭あげたじゃなぇな」
ち言うた。

 さあ、こういうことをされて黙(だま)っている吉四六さんではない。
 たちまち、ピカッと、いい思案が浮(う)かんだ。
 「よし、俺(おれ)も男じゃ、一たん口に出したもんはひっこめん。よっし、馬ごとやるきい」
と、いばって言うた。

 餅屋の親父は、してやったりと喜んで、馬ごと引っぱって行っちしもうたと。
 吉四六さん、残念がるどころか、嬉(うれ)しくて嬉しくてたまらない。笑いをこらえるのに、ひとくろうだ。


 次の日、吉四六さんは、浮き浮きして餅屋へ行ったと。
 そして、皿に盛(も)ってある餅を指さして、勢(いきお)いよく、
 「ごめん、こん餅ゃ、家ぐるみなんぼな」
ち聞いた。餅屋の親父は、思わず、
 「二十銭」
ち、一皿の値段(ねだん)をいうたと。
 「買うた」
ち言うて、二十銭、ポンと出し、
 「はい、みんな出ちくりぃ。こりゃ俺ん家(ち)じゃきぃ」
ち言うたと。
 そしたら、親父が、
 「な、なにを言う。嘘(うそ)を言うな。こらおれん家じゃねえか」
ち言うもんじゃきい、吉四六さん、ニヤッと笑うて、
 「今、家ぐるみ何ぼうかち聞いたら、二十銭ち言うたじゃねえか。俺が買うたんじゃき、早う出ちくりぃ」
ち、すまして言うたと。
餅屋の親父は、ようやく昨日の事を思い出したと。困(こま)ってしもうて、泣きそうな顔だと。


 「どうか吉四六さん、そげんこたぁ言わんじくりぃ。ここにある百円やるきい」
 「よしよし、ふんなら、昨日の馬と百円やれ」
 吉四六さん、馬と百円もろうて、いきようよう帰ったと。
 もしもし米ん団子、早う食わにゃ冷ゆるど。

「家ぐるみで二十銭」のみんなの声

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驚き

とんちで、ここまでドンデン返しされるととても気持ち良いです。餅屋の親父さんを上回った、吉四六さんのばか試合…馬取り返せて安堵です。( 30代 / 女性 )

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