欲深爺死んじゃった...( 10歳未満 / 男性 )
― 埼玉県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
昔、あるところに爺(じい)さんと婆(ばあ)さんがあったと。
あるとき、婆さんが、爺さんに、
「もうそろそろ筍(たけのこ)が頭を出す頃(ころ)合いだんべ」
というたら、爺さん、
「そうだな。そろそろだな、明日の朝にでも様子見がてら採(と)りに行ってくるか」
というた。
次の朝、爺さんは、婆さんがこしらえた稷(きび)団子を持って竹山へ行ったと。竹山で爺さんは、ふわふわした地面がほんのちょっぴり盛(も)り上がっているところを探しては、足裏(うら)でさぐり、土を掘(ほ)った。幾(いく)本か筍が採れたと。
いい汗かいて、石に腰掛(こしか)け、一本かじってみたら、柔(やわ)らくてほんのり甘(あま)かった。
「筍は、やっぱり、地面に頭を出す前のが一番だ。どれ、こいつをおかずに朝飯にするか」
というて、稷団子の包みを広げたら、ひとつこぼれて、ころころ転がって、木(こ)の葉の下にあった穴の中に落ちたと。
挿絵:近藤敏之
爺さんが穴をのぞき、耳をすましていたら、穴の中から、
「ダンゴコロコロ スットントン」
と聞こえてきた。
「ありゃ、こりゃ妙(みょう)だ」
爺さんは団子をもひとつ、穴の中に落としてみたと。そしたらまた、
「ダンゴコロコロ スットントン」
と聞こえてきた。
「こりゃ、おもしろい」
というて、またひとつ落とした。そしたらまた、
「ダンゴコロコロ スットントン」
と聞こえてきた。
「こりゃ、おもしろいわい」
というて、婆さんがこしらえてくれた稷団子をぜんぶ、穴に落とし込んだと。そしたら、
「ダンゴコロコロ、ダンゴコロコロ、ダンゴコロコロ、スットントン、スットントン、スットントン」
と、いくつもの声がしてきた。
「こりゃ、こりゃ、おもしろい、おもしろい」
と喜んで、また落としてやろうと包みを見たら稷団子はもう無かった。
「ありゃ、残念」
というて、また穴をのぞき、一体何がいるんじゃろと思っていたら、爺さんも穴の中に落ちたと。そしたら、
「ジジコロコロ、スットントン」
と、穴の奥(おく)の方から声が聞こえてきた。
爺さんは穴の奥へ奥へと歩いて行ったと。
奥の奥の広いところで、ねずみがいっぱいいて、餅搗(もちつ)きをしていたと。
挿絵:近藤敏之
「猫(ねこ)さえおらねば ねずみの浄土(じょうど) ペッタラコ」
「猫(ねこ)さえおらねば ねずみの浄土(じょうど) ペッタラコ」
というて、金の臼(うす)と金の杵(きね)で餅搗きをして賑(にぎ)やかだと。
爺さん、
「何とまぁ、猫さえおらねばねずみの浄土だと、おもしろいこと言いよるわい。ちと驚(おどろ)かしてみようか」
とつぶやいて、鼻つまんで、
「ニャオーン」
と猫鳴きした。
ねずみたちの動きが、ぴたっと止んで、すぐに、猫が来た、そら逃(に)げろ、ゆうて、一匹(いっぴき)残らず逃げてしまったと。広間に金の臼と金の杵が置きっぱなしだと。
爺さんは、それを持って家に帰ったと。
婆さんに、金の臼と金の杵を見せて、竹山の穴のことを話していたら、隣(となり)の欲深(よくふか)婆が、
「火ィ貸(か)してくれな」
というてやってきた。
「あや、その臼と杵、もしかしたら金で出きているんでねぇべか」
「そうだ、金だ」
「ど、ど、どうしたんだ、そんなもん」
爺さん、竹山での話をすっかり語って聞かせたと。
隣の婆、火ィ持って、あたふたと家に戻(もど)って行った。そして、
「爺さん、爺さん、おめ竹山さ行け、すぐに行け」
とけしかけたと。
隣の爺、わけを聞いて、
「そんなことなら急がにぁ。お前、早よ稷団子こさえろ」
というた。婆、あわてて稷団子こさえにかかったと。
「婆、なにしとる」
「今、竈(かまど)に火ィいれた」
「婆、なにしとる」
「今、湯ゥ沸(わ)かしてる
「婆、なにしとる」
「今、稷蒸(ふ)かしてる」
「婆、なにしとる」
「今、こねている」
というて、やっと稷団子が出来たと。
隣の欲深爺、それ持って、せかせか竹山へ行った。筍も探さないで、石のそばの穴を探した。
「あった、あった。これだんべ」
といって、団子を穴に落とし入れたと。
そしたら、話に聞いた通りに、穴の中から、
「ダンゴコロコロ スットントン」
と聞こえてきた。
「ありゃ、こりゃおもしれぇ」
というて、またひとつ落とした。
「ダンゴコロコロ スットントン」
「おもしれぇ、おもしれぇ」
隣の爺、持ってきた稷団子、みんな穴の中に落とした。
「ダンゴコロコロ、ダンゴコロコロ、スットントン、スットントン」
と、いくつもの声がしてきたので、
「こっからが大事だ。まず、穴の中を覗(のぞ)いて、それから耳をつけるんだったな」
といって、隣の爺、のぞいて耳をつけた。
そしたら、穴の中に落ちたと。
「ジジコロコロ、スットントン」
と声がしたので、穴の奥の方へ行った。
奥の広間では、いっぱいのねずみたちが餅搗きをしていた。
「猫さえおらねば ねずみの浄土 ペッタラコ」
「猫さえおらねば ねずみの浄土 ペッタラコ」
というて、銀の臼と銀の杵で餅搗きをして賑やかだ。
「ありゃりゃ、金の臼と金の杵ではないな。でもまぁ、いいか。よしよし、ここで猫の鳴き声を真似(まね)すりゃいいんだったな」
挿絵:近藤敏之
隣の爺、鼻つまんで、
「ニャァオーン」
というた。
これを聞いたねずみたちの動きがぴたっと止んだ。
挿絵:近藤敏之
が、すぐに、
「今朝の盗(ぬす)っと爺が来た」
「それつかまえろ」
というて、手やら足やら、顔やら尻(しり)やら、あたりかまわずくいついたと。
隣の欲深爺、死んだと。
おしまい チャンチャン。
欲深爺死んじゃった...( 10歳未満 / 男性 )
となりのおじいさんかわいそう
隣の爺さんもぐらになって可愛そう
お餅美味しそう( 20代 / 男性 )
おむすびころりんに似ている( 20代 / 男性 )
相手の気持ちを理解して尊重する事が共存に繋がる事になると実感しました( 60代 / 女性 )
むかし、ある寺に和尚(おしょう)さんと小僧(こぞう)さんがおったと。 小僧さんはこんまいながらも、夏の暑いときも、冬の寒いときも、毎日、和尚さんより早起きをして寺の本堂と庭を掃除(そうじ)し、その上、食事の支度をしたり日々のこまごました用事までこなすので、和尚さんは大層(たいそう)喜んでおったそうな。
「ねずみ浄土」のみんなの声
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