このお話、是非覚えて語ってみたいです。良い話ですね。 ありがとうございます。( 60代 / 男性 )
― 神奈川県 ―
語り 井上 瑤
再話 萩坂 昇
整理・加筆 六渡 邦昭
出典 改訂版『かわさきのむかし話』第一集
昭和48年2月1日 改訂
発行 むさしの児童文化の会
むかし、神奈川県(かながわけん)の大師河原(だいしがわら)というところに、お父と娘の二人暮(く)らしの漁師(りょうし)が住んでおった。
お父は毎朝、木っ葉みたいな小っちゃな舟をこいで漁(りょう)に出掛け、夜遅(おそ)うなってから戻って来とった。
真っ暗(まっくら)な沖では、どっちが浜か判らんようになる。
だから、娘は夜になると、浜辺の松の木の下で、タイマツを振(ふ)ってお父に知らせる。
お父は、そのポチッと光る灯(あか)りを目当てに舟をすすませるのじゃ。
「こんなに遅くまで大変じゃったなあ」
「いいえ、お父こそ寒(さむ)かったやろ。温かい汁を作っておいたで、早う帰って休んで下され。おらが後始末(あとしまつ)をしておくで。」
こんな毎日じゃった。
ある年の冬のこと。
朝のうちは晴れていた空が、夕方から急にどんよりし、風が出て、とうとう吹雪(ふぶき)になってしまった。
沖で魚をとっていたお父は、
「早う帰らねば」
と、“ろ”を力いっぱいこいだが、木っ葉みたいな舟は大波をかぶり、逆に北風にあおられて、沖へ沖へと流されて行くばかり。
「おおーい、おおーい」
お父はしきりに助けを求めておったが、その叫(さけ)び声も吹雪にかき消されて浜には届かん。
とうとう暗い海の底へ吸い込まれて終った。
浜では、娘が袂(たもと)で吹雪をよけながらタイマツをかざしておった。
沖からは悪魔(あくま)のような波が、ほえるように浜へ押し寄せてくる。
降りしきる雪に、雪女のようになった娘は、それでもタイマツを振り続けていたが、ついに油がつきてしもうた。
次の朝は、あたり一面銀世界(ぎんせかい)で、それは静かなもんじゃった。
寄せては返す波も、いつもと変わらん。
村人が、まぶしそうに浜辺へ出て来て何やら見つけた。
それは、松の木の下で、娘がタイマツをしっかりと握(にぎ)りしめたまま冷たくなっておった姿じゃった。
そして浜辺には、傷だらけになった漁師が打ち上げられておった。
村人は、変わり果てた父と娘の姿を哀(あわ)れんで、二人を、松の木の根元にねんごろに葬(ほうむ)ってやった。
するとな、夜になると、その松から不思議(ふしぎ)な光が出るようになったのじゃ。 「こりゃぁ、きっと、あの父娘(おやこ)が、わしたちが沖から無事(ぶじ)に浜へ帰れるよう光を出しているに違(ちが)いねえ」
村人たちはこう信じて、今まで名前の無かった浜辺の松を「不知火(しらぬい)の松」と呼ぶようになった。
漁師たちは、暗い沖からこの光を見て、村のありかを知り、無事に帰って来たそうな。
このお話、是非覚えて語ってみたいです。良い話ですね。 ありがとうございます。( 60代 / 男性 )
涙が出ます。海の仕事大変ですね。娘さんは偉いですね。( 50代 / 女性 )
お父が助けを呼んだのに、助けが来ない… 悲しいことですねぇ( 10歳未満 / 女性 )
むかしあったんですと。 火車猫(かしゃねこ)というのがあったんですと。 火車猫というのは猫が化けたものですが、なんでも、十三年以上生きた猫が火車猫になると、昔から言われています。
「不知火の松」のみんなの声
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