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ねやがわのみけねこ
『寝屋川の三毛猫』

― 大阪府 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 昔、河内(かわち)の国の寝屋川(ねやがわ)の里に、おしん婆さんという、それはそれは猫(ねこ)好きのお婆さんがおったと。
 はじめは二、三匹だった猫がたちまち十何匹にもふえたが、捨てようともしない。それぞれ名前をつけて、まるで我子(わがこ)のように可愛(かわい)がっておった。

 ところで、このあたりでは、猫を飼(か)うのには年(ねん)をきらねばならんちゅう習慣(ならわし)があって、三年目三年目に一度捨てたことにして、あらためて飼うことにしておった。

 
 おしん婆さんは、ミケと名を付けている三毛猫(みけねこ)を一度外へ連れて行き、また抱いて帰って育てていた。
 そうしないと、尾の先が割れて、化け猫になると言われていたからや。
 
 そのうちにまた三年目が来た。同じことをくり返してまた三年。三回もやると、九年。
 おしん婆さんはその雌(めす)の三毛猫がたいへんかわゆうて、
 「ミケや、これで三年三度、三三九度(さんさんくど)。おめでたいこっちゃ。赤飯(おこわ)をたいて年を切ったるさかいに、たんと食べるのえ」
 ちゅうて、赤飯を蒸(ふ)かせてミケに食わせた。 

 ミケはうまそうに食い終わると、かってにトコトコ外へ出て行きよった。そしてそれっきり戻って来なかった。

 
 おしん婆さんは、家のまわり、心当りをたずねてまわったが、ミケの姿(すがた)はどこにも見えん。
 そのうち他の猫に気をとられて、つい忘れるともなく忘れてしまった。
 何年か経(た)ったある年、おしん婆さんは大阪の町へ用事で出掛けることになった。
 ところが、道のどこをどう間違えたのか生駒(いこま)の山へ迷い込んでしまった。早や、日は暮れて、山の中は先も分からん真っ暗闇(やみ)。
 「えらいこっちゃ。どこか泊(とま)る小屋でもないやろか」 

 つくづく困って周囲(あたり)を見回(みまわ)していると、遠くに灯(あかり)が小さく見えた。

 
 「やれよかった。あすこで泊めてもらおう」 
 行くとそこは一軒屋(いっけんや)で、きれいな女が出て来て、
 「それはそれは難(なん)ぎなことですねぇ。こんなところでもよかったらどうぞ」
と招(しょう)じ入れてくれ、更(さら)に、
 「大層(たいそう)お疲れの様子(ようす)。お風呂(ふろ)が沸(わ)いておりますから、暖(あたた)まってからお休みなされ」
と、下へも置かぬもてなし振りだった。

 
 風呂に入ると別の女が湯かげんを見に来た。そして、ふと、おしん婆さんを見てびっくりしたように言うた。
 「あれれ、これはなつかしい。おしん婆さんやありまへんか。わたしは元お婆さんの家に飼われていた三毛猫のミケでございます」
 「えっ、ミケやって」
 お婆さんは、何年か前行方不明になったミケのことを思い出して、おもわず大きな声を出した。

 
 するとその女は、シイッとお婆さんの口をふさぐようにこう言うた。
 「お婆さん、この家は猫の家で、山に迷った人を泊めて食ってしまう所ですえ。猫は飼われる年が切れて捨てられると、みんなこの山へ来て女に化けるのですえ」
 おしん婆さんはびっくりした。
 「さあ、はようお逃げなされ。このふもとまで下りると、ほんまの人間の宿がおますさかいに」
と言って、おしん婆さんを案内(あんない)して、その宿へ連れて行ってくれたと。


 ミケは九年も飼ってくれたので、これで本当の年が切れたものと思い、自分から山に入っていたのやったと。 

「寝屋川の三毛猫」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

悲しい

ミケがいなくなってそれを忘れてしまって、「ミケからのバツ」が食らうんじゃないかと思い、ドキドキしていたけど、まさか助けてくれるなんて!

驚き

いい話だけど、勝手に送り返して大丈夫かな?( 10代 / 女性 )

驚き

寝屋川市の隣、枚方市在住です。昔話は好きで読んだり聞いたりしますが、初めて聞きました。( 40代 / 女性 )

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