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ふくまのまたぜえさん
『福間の又兵衛さん』

― 福岡県 ―
語り 井上 瑤
再話 宮地 武彦
整理・加筆 六渡 邦昭

 とんと昔のことたい。
 筑前(ちくぜん)の国、今の福岡県(ふくおかけん)の福間の里(ふくまのさと)に花見(はなみ)という街道(かいどう)が一本通っておって、その道は、いつでもおさん狐(ぎつね)が化(ば)けて出るところじゃったげな。
 
  ある日のことたい。
 福間の又兵衛(またぜえ)という馬方(うまかた)が、博多(はかた)の町から空荷(からに)のまんま、トンボトンボ、花見の街道まで帰ってきよると、ちゃんとおさん狐がきれいなベッピンさんに化けて出てきおったげな。 
 
 
福岡県福間の里:今の福岡県福津市花見の里


 それで、又兵衛、
 「ベッピンさん、こん馬に乗らんな。ただで乗せてやろうたい。ただやきなあ」
と声をかけると、おさん狐のやつ顔を赤らめて、馬の背に乗せてもろうたげな。
 「おっ、そうたい。こん馬は暴(あば)れるとじゃけん、ようっく、ひもでしばっとかな」
 又兵衛わくわくしながら、おさん狐を、ぐるぐるっと馬の鞍(くら)に巻(ま)きつけてしもうたげな。


 おさん狐は、きつうてたまらんものだから、
 「ちいっと、ひもをゆるめてつかあさい」
と頼(たの)むけど、又兵衛、知らん顔たい。

 
 それでも、あんまりおさん狐が泣くものだから、
 「やい、おさん狐、お前の正体(しょうたい)ははなっから知れっちょる。ひもをゆるめてやってもいいが、おれが言うことも聞いちくるるか。お前が今、金の茶釜(ちゃがま)に化けて、おれにひともうけばさしてくるっとなら、ゆるめてやろうたい」
と、にらみつけると、
 「きっと、金の茶釜に化けてみせます」
と約束(やくそく)したもんやきい、ひもをといて、金の茶釜に化けさせたげな。
 
 又兵衛、さっそく、その金の茶釜を寺の和尚(おしょう)さんに高い値段(ねだん)で売りつけたげな。
 和尚さんもたいそう喜んで、正月になると大勢(おおぜい)のお客を招(まね)いて、その茶釜を自慢(じまん)しいしい、炉(ろ)の火に架(か)けたげな。

 
 そしたら、何やらこげ臭(くさ)い匂(にお)いがして、あげくのはてに、金の茶釜から毛むくじゃらの手足が出てきて、炉の灰(はい)を跳散(けち)らすと裏の山へ逃(に)げて行ったげな。
 そんで和尚さんな、たいそう怒(おこ)らっしゃって、又兵衛の家へかけこんで行ってみたら、又兵衛のやつ、ひどい出来物(できもの)できたふりをしておって、床(とこ)の中たい。
 顔を真っ赤にして怒(おこ)っとる和尚の話を聞いて、又兵衛のやつ、蒸(む)し芋(いも)を練(ね)りあげたのを塗(ぬ)りつけた顔をつき出して、和尚さんにいうたことが、にくい。
 「和尚さん、そりゃあ、おおごとやったなあ。そん金の茶釜ば、和尚さんの所(とこ)さ持って行った又兵衛は、きっと、おさん狐の化けおった又兵衛でござっしょうなあ」

  それぎんのとん。
 

「福間の又兵衛さん」のみんなの声

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感動

父は若い一時期福間に住み、後年私自身も花見の久保に一年ほど住んだことがあります。 今は話の内容は忘れてしまいましたが幼いころ父が「むかしむかし・・」と福間の又兵衛のとんち話をしてくれたことを懐かしく思い出しています、優しかった今は亡き父を思い出しています。 ( 男性 )

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