― 岡山県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところに大きな、それは大きな木があった。大人(おとな)で三(み)かかえもあったと。 あるとき、木こりが二人やってきて、この木を伐り倒すのだそうな。一人が、
「大きな木だのう。どうやって伐り倒すか」
言うたら、もう一人が、
「お前伐れ(き)、わしが拍子をとってやる。掛け声かける」
というた。
「そんなら取りかかるか」
というて、マサカリをターンと打ち込んだと。そしたら、もう一人が後(うしろ)で木株(きかぶ)に腰掛けて、
「よいしょ、よいしょ」
と、声を掛けて拍子をとったと。
ようやくに切り倒したと。そしたら、掛け声をかけていたのが、
「よう倒した。こんなぶっとい木ィ、いったいなんぼになるんじゃ」
というた。
二人して、お金の催促に木商い(きあきない)の旦那さんのところへ行ったと。結構なお金になったと。
そしたら、掛け声をかけた者(もん)が、
「お前が伐ったんじゃが、わしも拍子とりしたんだから、半分くれ」
というた。
「半分もやれん。わしが一人難儀して伐ったのに、お前は木株に座って、煙草(たばこ)しいしい掛け声かけてただけだ」
「いや、半分くれ」
「そんなこと言うなら裁判してもらおう」
というて、代官所へ行ったと。
お代官さまが入れ替わり、立ち替わり評定(ひょうてい)してくれたが、どうにも折り合いがつかんのだと。
これではらちがあかないと、こんどは南町奉行の大岡越前(おおおかえちぜん)の守(かみ)さまにお裁(さば)きしてもらうことになったと。
大岡さまは、
「これ、そこなお前、お前が木を伐ったのだな」
「へい、マサカリ持って伐ったのは、わしですだ」
「うむ、すると、そこなお前、お前が掛け声したのだな」
「へい、カーンて音がするたんび、「よいしょ、よいしょ」って、拍子とってやりました」 「よしよし、カーン、ヨイショ、カーン、ヨイショだな」
「へい」「へい」
「そうか、相判(あいわか)った。それでは木商人(きあきんど)からもろうた銭は、どこにある」
「へい、わしが持っております」 「うむ、それをな、ここに出してみなさい」
「へい。これでやんす。五十文もくれました」
「よし、よし、これへな載(の)せよ」
というて、大岡さまがお盆を差し出したと。
「よし、よし、たしかに五十文あるな。では裁きを下す。よいか」
「へい」「へい」
と返じをしたら、大岡さま、五十文を手にもって、ジャラ、ジャラさせたあとで、その銭を、お盆の上にコーン、コーンとひとつずつ落としたと。
そしてからいうには、
「お前はコーンという音を聞いてから掛け声かけたのだから、この銭の音だけ聞いて、終りにせよ」
と、こうお裁き言い渡したと。
昔こっぷり どじょうの目。
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むかし、むかし。 豊後の国、今の大分県大野郡野津町(おおたいけんおおのぐんのづまち)大字野津市(おおあざのづいち)というところに、吉四六(きっちょむ)さんという、頓知(とんち)の効いた面白(おもしろ)い男がおった。
「掛け声の代価」のみんなの声
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