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ふくのかみ
『福の神』

― 福島県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところに長者があったと。
 来客がひきもきらず家業(かぎょう)は盛(さか)んであったが、働(はたら)くばかりで、ひと息つく暇(ひま)もない。

 ある日のこと、長者は八卦易者(はっけえきしゃ)を訪ねて、
 「わたしの家には朝から晩(ばん)まで来客が多くて困っております。お客の来なくなる方法はないものでしょうか」
ときいた。

 
 易者(えきしゃ)はぜい竹(ちく)を鳴らして卦(け)を立てた。して、
 「朝日、扇(おうぎ)、舞(まい)を弓矢で払う、と出ました。つまり、朝日の頃、扇踊(おうぎおど)りをする者を弓矢(ゆみや)で射(い)れば願(ねが)いが叶(かな)うでしょう」
というた。
 長者は、さっそく弓矢を持って夜の明けるのを待ったと。

 朝日が昇った。目をこらすと、まぶしいお天道さまの中に、扇をひらひらさせて踊(おど)っている者がある。 
 「これこそ、易者の言うたことにちがいない」
 長者は弓矢をかまえて、ひょうと放った。
 すると不思議(ふしぎ)なことに、射(い)られたはずの者が、煙(けむり)のように消えてしまった。あたりは何事も無かったような、明るい朝があるだけだったと。
 

 
 長者がクビを傾(かし)げながら家に入るのと入れ違(ちが)いに、長者の女房(にょうぼう)が出てきて、土蔵(どぞう)に入った。
 すると、奥の方で人の唸(うな)り声がした。
 「誰(だれ)かいるの」
と、恐恐(こわごわ)近寄ってみたら、福々(ふくぶく)しそうなひとりの男が苦しそうにしていた。
 「あなたはどなたですか。どうしてここにいるのですか。どこかお悪いのですか。」
ときいた。
 「わしは福の神だ。長らくこの家(や)を盛り立ててきたが、今朝、お前の亭主に、矢を射られた。まだ汚れのない朝の初光りの中で舞をささげておったというに、罰(ばち)当たりなやつだ。」
 女房は長者の行いをあやまって、家の誰(だれ)にも知られないように薬を持ってきて福の神の手当(てあて)をしたと。福の神は
 「わしは、もうここにはおられん。隣村(となりむら)へ移ることにした。長者には矢を射られ怪我(げか)をしたが、お前には助けられた。今後お前が困るようなことがあったら、いつでもわしを訪(たず)ねてくるがいい」
 こういうと、姿が消えたそうな。

 
 それから間もなく、長者は人の嫌(いや)がる病にかかり、臥(ふ)して起きあがれなくなったと。訪ねて来る人も無くなった。賑(にぎ)やかだった屋敷(やしき)が音もしないほど静まり、盛(さか)んだった家業(かぎょう)が、あっという間に衰(おとろ)えたと。
 長者は女房を枕元(まくらもと)へ呼んで、
 「易者のいうことを間に受けて、扇踊りの人を弓矢で射ったのは、わしのおろかさだった。すまぬ」
と言い残すと、間もなく息を引きとったと。

 長者亡(な)きあと、屋敷の暮(く)らしはますます苦しくなった。
 途方(とほう)に暮れていた女房は、ふと、福の神の言葉を思い出して、隣村の近頃(ちかごろ)金持ちになったという農家を訪ねた。

 
 その家(や)の神様を拝ませてもらったら、屋敷(やしき)へ訪ねてくる人がポツポツ現れて、恩返しだとていろいろ手伝ってくれる。家業が盛り返してきたと。女房は、
 「福の神さま、ありがとうございます」
というて、庭に社(やしろ)を建てて福の神を祀った。
 
 
 女房の家は、ますます栄えていったと。
 
 ざっと昔がさけぇた。

「福の神」のみんなの声

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人類の命、地球に生存する全ての生き物は大事である。( 80代以上 / 男性 )

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