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たからくるみず
『宝来る水』

― 岡山県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところに大層(たいそう)な分限者(ぶげんしゃ)がおったと。
 大歳の晩に作男(さくおとこ)を呼んで、
 「明日は正月じゃけえ、早起きして若水(わかみず)を汲(く)んでおくように」
といいつけた。
 「旦那さん、若水いうたらどがあなもんなら」
 「お前、若水を知らんか。若水いうたら正月神様にお供(そな)えする水じゃ。川に塩をまいてお清めしてから汲んで来るんじゃぞ。ええな」
 「へえ、わかりやした」
 作男は、年始めの大事の用(よう)をおおせつかって、わくわくして寝たと。


 さて、明くれば正月元旦。
 作男は張り切って起きた。起きたところが、外はどえらい雪が降り積っておった。すねまでもあるような大雪。
 「こりゃあ、かなわん。うっかり川に近づいてみろ、ドボンとはまって、若水とりのつもりが若男とられになっちまう。こいつぁ何ぞ思案せにゃあ」
 雪ん中をこいで行くのが大儀なもんで、あっちきょろきょろ、こっちきょろきょろしとったところが、うまいぐあいに、田んぼの口(くち)から水が出ている。
 「おう、あれがよかろう」
 すぐ近間(ちかま)の、その水を汲んだと。

 
 そしたら、それを女中が見ていて、分限者に知らせたと。


 「へい、ただいま戻りやした」
 「何が、へい、戻りやしただ。ちょっと来い。お前、今、何して来た」
 「何いうて、旦那さんに言われて若水とりに行って来ましただ」
 「若水汲んで来たゆうて、女中から聞きゃあ、お前は田んぼの水を汲んだそうじゃないか。あほうごとしてからに。神さまをたばかると家にゃあ福が来まいが。お前みたいなやつは、置いとけん。暇(ひま)ぁ出す」
 分限者はカンカンになって怒ったと。
 ところが作男は、けろっとして、
 「そりゃあ、何じゃあ、旦那さん。考え違いじゃがな。おら、田から来る水を汲んで来たんじゃ」
 「だから怒っとるんじゃ」
 「そうじゃねえ、旦那さん、田から来る水、つまり、宝来る水を汲んで来たんじゃ」

 
 分限者は、鳩が豆鉄砲くらったような顔をしてたが、そのうち、ポンとひざを叩(たた)いて、
 「おお、そうか、お前ええことを言うてくれた。宝来る水か、こりゃあええ」
 こう言うて、えらい喜んだと。
 「食え、食え、食え、食え」
 いうて、ご馳走をしてくれるは、お年玉をどっさりくれるは、作男も分限者も、いい正月を迎えたと。

 むかしこっぽり杵のおれ。

「宝来る水」のみんなの声

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