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かつおぶしのむしぼし
『かつお節の虫干し』

― 大分県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、豊後の国(ぶんごのくに)、今の大分県(おおいたけん)大野郡(おおのぐん)野津町(のつまち)の野津市(のついち)というところに吉四六(きっちょむ)さんという面白い男がおったと。

 吉四六さんは畑仕事の他に、ときどきいろんなものを町へ売りに行っておったと。
 あるとき、かつお節(ぶし)を売り歩いていたら、猫がぞろぞろ後をつけてくるだけで、ちいっとも売れなかったと。
 そのうち腹(はら)がすいて来たが、ふところには金が無い。

 ※大野郡野津町野津市:現在は、臼杵市野津町大字野津市 


 「早いとこ一本でも売れちくるりゃ銭になるんじゃが、かつお節じゃあ堅(かた)くって食えねえし、どっかで何か食いてえなあ」
と、ひとりごとを言いながらなおも歩いていたら、お庄屋(しょうや)さんの家に来かかった。
 
 ぷーんとあんこのいい匂いがする。
 お庄屋さんの家では、何かのお祝い事があったらしく、ぼた餅(もち)を作っている最中(さいちゅう)だった。
 それをのぞき見た吉四六さん、とたんにいい思案(しあん)が浮かんだ。
 ゴクンとつばを飲みこんで中へ入って行ったと。
 「なんじゃ、吉四六か。何の用だ」
 お庄屋さんは、ぼた餅を見せまいと吉四六さんの前に立ちふさがった。 

 
 「へぇ、いつもお世話になっちおりやす。先(せん)からご様子を伺(うかが)っておりやすと、何か、お祝い事のあるようなご気配(けはい)。わしは今仕事の最中ではありましたが、何はともあれ、お祝いに上らにゃ吉四六の男がすたると思いやして参上(さんじょう)致(いた)しやした次第(しだい)でありやす」
 吉四六さんに、こうまで言われるとお庄屋さんも悪い気はしない。
 「おっ、そうか、それはそれは」
と、いっぺんに警戒心(けいかいしん)を解いて、あいそをくずしたと。
 
 吉四六さん、背中に担(かつ)いだ袋(ふくろ)を下ろし、
 「お庄屋さん、お盆(ぼん)をひとつ貸しち下さりまっせ」
と言うと、お庄屋さん、吉四六さんが袋のひもをほどきにかかるのを見ながら、
 「お盆をな、うむ、お盆な」
と、言うて、自らお盆をひとつ持って来たと。


 吉四六さんは、そのお盆へ、かつお節を山のように盛りあげた。
 お庄屋さんは急にあいそがよくなって、
 「おお、たくさんじゃの、まあ上がって茶でも飲んで行け。そうじゃ、今、ぼた餅作ったところじゃから、お前も食べて行かんかね」
と言うた。
 「へぇ、これはご親切にどうも。せっかくのお祝い物を遠慮(えんりょ)するのも何ですから、それじゃありがたくちょうだい致しやす」
 吉四六さん、嬉(うれ)しそうにぼた餅に食いついたと。
 腹いっぱいになって、
 「ほんにごちそうになりやして。それじゃ、このへんで失礼致しやす」
と、こう言いながら、先ほど盆に盛り上げたかつお節を、また袋に入れ戻したと。


 「こ、これ、吉四六。そ、それは……」
 「へぇ、これは、今日のわしの商(あきない)の品でやす」
 お庄屋さん、てっきりお祝いの手土産(てみやげ)だとばかり思っていたのに、当てがはずれて、がっくりだと。 
 吉四六さんに、まんまといっぱい食らわされたくやしさで、顔をひきつらせながら、
 「何でまた、盆にかつお節を盛り上げたんじゃ」
と聞くと、吉四六さん、すまして、
 「へぇ、こうして、ときどき盆に上げち、風を通さねぇと、かつお節に虫がついちしめぇやすんで」
 こう言うたと。
 空のお盆をお庄屋さんに返した吉四六さん、元気に出て行ったと。

 もしもし米ン団子、
 早う食わな冷ゆるど。

「かつお節の虫干し」のみんなの声

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