民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 言葉の聞き違い・言葉遊びにまつわる昔話
  3. 馬の田楽

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

うまのでんがく
『馬の田楽』

― 埼玉県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、馬子(まご)が馬に味噌樽(みそだる)をつけて運んでいたと。
 途中に川があったので馬に水を呑ませ、ついでに川原でひとやすみした。
 お天道さんは真上にあるし、川風は気持ちいいし、つい、とろとろと居眠りしたと。
 しばらくして目を覚ましたら、馬が見当たらん。味噌樽をつけたまま居なくなっていた。
 「こらぁ、おおごとだぁ。早よう探さんと、おおーい、馬やぁーい。どこいったぁーっ」
とて、あわててあっち走り、戻ってこっち走り、追いかけたと。 
 「おおーい、馬やぁーい」
とて、叫びながら駆(か)けていたら、道端の畑に爺さまが一人、菜っ葉の虫取りをしていた。 
 「爺さま、爺さま、ここへ馬が来なかったろうか」
 「へぇっ、何ですかいのう」
 爺さま、腰をのばしのばし、耳に手を当てて聞きかえした。


 「ここへ、馬が通らなかったろうか」
 「へぇ、いいお天気になりましたじゃあ」
 「お天気じゃなくて、馬、馬だよ馬」
 「へぇっ、馬ですか、馬は飼(こ)うとりません」
 「そうじゃなくて、馬がこの道を通らなかったろうか」
 「はぁ、そうですか。馬は毎日、通っておりますがのう」
 「そうじゃなくって、今日の、ちょっと前、味噌をつけた馬、通らなかったろうかって聞いているの」
 「はえ、そうですか。馬に味噌を。はぁ、そうですか」
 「そうだ。味噌つけた馬。みかけなかったろうか」
 「はえっ、わしは、もう八十になるだが、馬の田楽(でんがく)なんて、はじめて聞いた。うまいんかのう」

 ちゃん ちゃん。 

「馬の田楽」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

一番に感想を投稿してみませんか?

民話の部屋ではみなさんのご感想をお待ちしております。

「感想を投稿する!」ボタンをクリックして

さっそく投稿してみましょう!

こんなおはなしも聴いてみませんか?

ゆうれい井戸(ゆうれいいど)

 むかし、と言ってもそんなに古いことではない。君が小学生なら、君のお爺さんお婆さんにあたるお人が、まだ子供時代のころだ。

この昔話を聴く

お正月様がやって来ん(おしょうがつさまがやってこん)

あんたさん、知っとられますか。昔は太陰太陽暦(たいいんたいようれき)っちゅうのを使っておりましてのう、つまり旧暦(きゅうれき)ですかのう。明治五年十…

この昔話を聴く

大工と鬼六(だいくとおにろく)

むかし、あるところに、たいそう流れの速い川があったと。何べんも橋を架(か)けたことはあるのだが、架けるたんびに押し流されてしまう。「なじょしたら、こ…

この昔話を聴く

現在886話掲載中!