― 新潟県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭
むかし、佐渡(さど)が島(しま)に艪(ろ)かい舟(ぶね)が通っていたころの話。
舟の乗客(じょうきゃく)たちが、上方詣(かみがたもう)での出来事(できごと)を楽しそうに話しておったと。
そしたら、舟の間近(まぢか)に大っきなタコが潜(ひそ)んどって、
「ああ、おらもたった一遍(いっぺん)でいいから、人間のように上方詣でというものをしてみたい」
とつぶやいたと。
そこで、その晩(ばん)陸(おか)にあがり、お寺(てら)の和尚(おしょう)にお願いをしたと。そしたら和尚が、
「よしよし、ほんならお前(め)えはなあ、小僧(こぞう)に化(ば)けて、お供(とも)せえ」
と言うてくれた。
タコは小僧に化けて、次の日、和尚と二人で旅(たび)立ったと。
旅籠(はたご)に泊(と)まると、和尚が風呂(ふろ)からあがって、
「いい湯(ゆ)だった。小僧、お前もつかってこい」
と言うてくれたが、
「おら、湯は嫌(きら)いだ」
と言うた。和尚は、
「おう、そうじゃったな。お前えは元(もと)がタコだから、風呂につかるとユデダコになるか」
と、笑(わろ)うたと。
それを旅籠の主人(あるじ)が聴(き)きつけ、目を光らせた。手もみしてやってきて、
「えー、お小僧さんには水風呂を用意(ようい)しましょうか」
と言うた。小僧は、
「水なら入る」
と言うたと。
小僧が水風呂に入ると、主人はいきなり風呂桶(おけ)にフタをかぶせて重石(おもし)を乗(の)せた。してから、風呂の焚き口(たきぐち)で杉(すぎ)の葉(は)をバチバチ焚いた。
小僧はたまげて、
「キュウ、キュウ」
と、タコ啼(な)きしたと。
やがて風呂場のタコ啼きが静(しず)かになったので、主人がフタをとってみると、大ダコが真っ赤になって死(し)んでおった。主人はすぐにそれを売(う)って金儲(かねもう)けしたと。して、和尚には、
「風呂に入っとった小僧さんのかわりにタコが死んどりました。おぼれたんでしょか。死んだタコは気味悪(きみわる)いので捨(す)てときました」
と言うたと。和尚は、
「あいつがおぼれるなんてあるもんか」
と旅籠の主人をあやしんだが、今更(いまさら)どうしようもない。しょんぼりと上方へ旅立ったと。
上方詣でが終(お)わって、帰りしなに、また、その旅籠に泊まったと。和尚が、
「主人や、あとでタコの供養(くよう)をするから、お前えも立ちあえ」
と言うと、主人はまた目を光らせ、にこにこ手もみして、
「へえへえ、なんたってあぁたのお仲間(なかま)だったですもんな。ご供養しましょ。まずは風呂なりと入られて、旅のあかを落とされては」
と言うた。
和尚が風呂に入ると、主人はいきなり風呂桶にフタをして重石を乗せ、杉の葉をバチバチ焚いたと。和尚はたまげて、
「こ、これ、主人。わしはタコではない。本物の和尚だで・・・・・・」
と喚(わめ)いたが、主人は、
「へえへえ、そうでござりましょうよ」
と言いながら、どんどこ、どんどこ杉の葉をくべたと。
風呂場が静かになったので、主人がフタをとってみると、ありゃりゃ、人間の和尚がゆでダコのようになって、息(いき)も絶(た)え絶(だ)えになっとる。主人はいそいで和尚を風呂からかかえ出して、水を何杯(なんばい)も何杯もふっかけた。
和尚はようよう息を吹(ふ)きかえしたと。
いきがさけた。
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むかし、ある山家に年老いた飼犬がおったと。ある日、犬が家の前庭で寝そべっていると、家の者が、「おら家の犬も年をとって、ごくつぶしなったもんだ。皮でも剥いでやるか」と話しているのが聞こえた。
「たこの上方詣で」のみんなの声
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