― 新潟県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
あったてんがの。
昔、あるところにキツネとムジナがあったてんが。
あるとき、ムジナがキツネのところへやって来て、
「キツネどん、キツネどん。お前は人を化かしては、ンまいもんを食っているが、人の化かし方を、おらにも、ちいっと教えてくれや」
「ああ、いいとも、だけど、お前、死んだまねはできるか」
「それぐらいはできるさ」
って、死んだまねをしたてんが。
挿絵:福本隆男
ほうしたれば、キツネが、くるんとでんぐりうって、鉄砲撃(てっぽうう)ちになった。
ほうして、死んだまねをしたムジナをかついで、町へ売りに行ったてんが。
「ムジナ、いらんか」
「いくらだ」
「三両だ」
「高いな、もっとまけれ」
「まけらんねぇ。このムジナは、首の下に白い毛の生えているムジナで、他のムジナとは違(ちが)う。筆屋(ふでや)へ持って行けば、もっと高く売れるすけ」
「あ、よし、三両で買おう」
キツネは、その三両で、帰りにソバと油揚(あぶらあげ)をいっぺぇ買うて戻った。ムジナもすきをみて逃げてきて、キツネと一緒になって、ソバと油揚をさんざ食いしたてんが。
ほれから、十日も過(す)ぎると、また、ムジナが来て、
「キツネどん、キツネどん。このあいだはありがとうござんした。また、たのむ」
「そうか、そんなら、また死んだまねをせや」
って。死んだまねをしたてんが。
ほうしたれば、キツネは、また、くるんとでんぐりうって、鉄砲撃ちになった。
ほうして、死んだまねをしたムジナをかついで、前に売った家へ行った。
「ムジナを、また買うてくれねえか」
「このあいだのムジナは、逃げてしもうた。死んだのでねえば、だめら」
「今日のは死んでる。この間は気の毒したすけ、今日は二両にまける」
「ほんとに死んでいるか」
「せば、すぐたたいて、よおっく殺(ころ)して皮むけばいい」
こう、けしかけたキツネは、二両受け取ると、ソバと油揚を買うて、ひとりで、さんざ食いしておったてんが。
ほうしたら、そこへ、ムジナの子がやってきて、
「キツネどん、キツネどん、おらちの親はまだ帰らねえが、しらんか」
って、きいたてんがの、キツネは
「帰ったはずだがなぁ」
って、とぼけておったと。
ムジナの子は、自分の棲(す)み家と、キツネの棲み家の間を、何べんも何べんも行ったり来たりしとったが、そのうち、キツネが家の中で、
「あの子ムジナめが、何べんも聞きに来るども、親は帰るもんが。おれにだまされて殺されてしもうたがね」
と、いうているのが聞こえた。
さあ、ムジナの子は、くやしくてならん。どうにかして仇(かたき)をとってやろうと思ったてんが。
あるとき、子ムジナが、はたごやの流しの外で食い物探(さが)していたら、家の中で、
「あしたは、お殿様(とのさま)の早立ちだ。」
と、話しているのを聞いた。
子ムジナは、すぐにキツネのところへとんで行った。
「キツネどん、キツネどん、おらがどれだけ化けられるか見てくんろ。明日の朝、殿様の行列になってみせるすけ、街道(かいどう)へ来てくんろ」
次の朝、キツネが街道に出ていたら、立派なお殿様の行列が
「下にー、下にー」
って、やって来た。キツネは
「ほう、よう化けたな」
って、行列の前に、ひょいと出た。
ほうしたら、お供の侍(さむらい)たちが、
「このキツネめ」
って、チャガチャガと、ぶち殺したと。
挿絵:福本隆男
いきがポーンとさけた、なべの下ガラガラ。
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むかしがひとつあったとさ。 あるところに、貧乏(びんぼう)じゃったが、それは仲のよい爺(じ)さまと婆(ば)さまが暮(く)らしておった。 年越(としこし)の日がきても何一つ食べるものがない。
「子ムジナの仇討ち」のみんなの声
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