民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 大きな話・法螺話にまつわる昔話
  3. 卓兵衛話

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

たくべえばなし
『卓兵衛話』

― 宮城県 ―
語り 井上 瑤
再話 佐々木 徳夫
整理・加筆 六渡 邦昭

 むがす、卓兵衛(たくべえ)さんという頓智(とんち)のある人がいたど。
 お伊勢参(いせまい)りから無事(ぶじ)に帰って来たんで、日頃ねんごろにしている和尚(おしょう)さんのどこさ、お土産(みやげ)を持ってったど。
 「ああ、卓兵衛か。いつ帰った」
 「はい、ゆんべ帰りすた」

 
卓兵衛話挿絵:福本隆男
 「疲(つか)れたべな。上方(かみがた)はどうだった」
 「はい、日本の広いのにはおったまげすた。十足用意(じゅっそくようい)した草鞋(わらじ)もたちまち履(は)きつぶしたし、途中(とちゅう)で何足(なんぞく)買(か)ったげんども、二日(ふつか)で一足の割りに擦(す)り切れるんで、鉄(かね)の草鞋を買って履きすた」


 「ほう、鉄(かね)の草鞋とはな、さぞ重かろうが。ンじゃが、草鞋の心配はせんでもようなったな」
 「ところが、その鉄(かね)の草鞋もいくがいくがいくうちにだんだん薄(うす)くなって、お伊勢さんに着いた頃には経木(きょうぎ)みたいにペラペラになりすた。仕方(しかた)なく親から貰(もら)った足で、じかに歩きすた」


 「素足(すあし)でか、痛(いた)かったべな」
 「痛いもなにも、石ころが足の裏(うら)に食い込むうちはまだよかったげんども、だんだん擦り切れて、踝(くるぶし)まで減(へ)ってしまいすた」
 「そんなんで、よく我慢(がまん)できたなぁ」
 「踝(くるぶし)までは未(ま)だいい方で、だんだん擦り減って、膝小僧(ひざこぞう)から腿(もも)の付け根まで減ってしまいすた」


 「ほほう、卸(おろ)し金(がね)あてられたみたいにか」
 「はい」
 「それは大変だったな。それからなじょして歩いてきたかや」
 「胴(どう)だけでは歩げねんで、松葉杖(まつばづえ)を買って歩きすた。したが、胴は柔(やわ)らかいんで、たちまち擦り減って、とうどう首の付け根までになってしまいすた」
 「ほう、すごいことになったな」
 「はい、そこで仕方なく、風呂敷(ふろしき)さ首を包んで、どっこいしょと担(かつ)いで、ゆんべ、やっと帰らすた」

 
卓兵衛話挿絵:福本隆男
  「その首、誰が担いだのや」
 「はい、この俺でがす」
 「これ、卓兵衛、わしまで担いだな」
 
 えんつこもんつこ さげた。
 

「卓兵衛話」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

驚き

シュールな話ですね。

こんなおはなしも聴いてみませんか?

地蔵様と笠っコ(じんぞさまとかさっこ)

 昔、あったけど。  ある村さ、孫三郎(まごさぶろう)とお米(よね)と云(い)う年寄(としよ)った夫婦住んでだずおん。

この昔話を聴く

嫁礁(よめぐり)

能登半島(のとはんとう)一番先っぽに狼煙(のろし)という所があるがの、この狼煙の沖に暗礁(あんしょう)がありますだ。海岸から四里(よんり)ばかりもあ…

この昔話を聴く

惚れ薬(ほれぐすり)

むかし、あるところに商人の番頭さんがおったと。「俺もそろそろ嫁ごを貰わんとならんが、どうせ貰うんなら美しい嫁ごが欲しいものだ」そう考えて、毎日毎日、あちらこちらと商売に行っていたら、あるところで、「惚れ薬」があるという耳よりの話を聞いたと。

この昔話を聴く

現在886話掲載中!