― 秋田県 ―
再話 今村 泰子
整理 六渡 邦昭
語り 井上 瑤
昔、あったけど。
ある村さ、孫三郎(まごさぶろう)とお米(よね)と云(い)う年寄(としよ)った夫婦住んでだずおん。
一人息子は早ぐ死んでしまって、二人は貧乏(びんぼう)しながら、なんとがその日その日をおぐってだけどナ。
ある日の事、孫三郎爺(まごさぶろうじい)ぁ町さ買物(かいもの)に行っだけずおん。したば、その日ぁ大した雨降(あめふ)りで、行ぐ途中さある六地蔵(ろくじぞう)も、雨に濡(ぬ)れで、寒そうにしてだけど。孫三郎爺ぁ、
「先(ま)ず先ず、地蔵様(じんぞさま)、この雨降りに笠っコもかぶらねゃで、かわいそに」
ど思って、しぇっかぐ町さ行ったのに、自分の買物は何もしねゃで、笠っコ六つ買って来て、六地蔵様さかぶしぇで、家さ戻ったけずぉん。
挿絵:福本隆男
「婆(ばんば)、婆、おれゃ今日、大した良え事して来たぞ」
て、孫三郎爺ぁ、お米婆さ、六地蔵様さ笠コあげで来た話、みんな教ぇだけずぉん。
したば婆も喜んで、
「それぁ良がたナ、爺。地蔵様もなんぼが喜んで居だだが。
死んだ息子も、肩身広くしているだべなあ。
雨降りで歩ぎずれぁがっだべ。なんぼがくたびれだだが。
早く飯(まま)食て寝るべしナ。」
「くだびれだ、くだびれだ。年ぁとりたぐ無ぁもんだな、婆。ンだども、おらばりで無ゃ。皆年取るんだがら仕方無ゃごっちた。早ぐ休むべ」
それがら二、三日して、爺さ夜中に目を覚ましたば、遠くの方で何だが人の声するずぉん。だんだん近づいて来るど。
「孫三郎爺、せぇんどぁ、笠コ、かんぶんだ」
て、云う声ど、ガラガラガラど車の音しだけずぉん。して、家の前まで来て、ジタっと止まって、後はガヤガヤ戻って行ぐ音しだけど。
それで、次の朝、早ぐ起ぎで見たば、なんとたまげだ事に、大き車さ衣類(いるい)、布団(ふとん)、米俵(こめだわら)なの、醤油(しょうゆ)、味噌(みそ)、野菜から魚まで、色んた物一杯積(つ)まって、先日の笠の御礼て、書いた紙っコ添(そ)えで置いであるけずぉん。
挿絵:福本隆男
爺と婆、大喜びで早速赤飯(せきはん)炊(た)いて、塩鮭コあぶっで、
「うめゃあ、うめゃあ」
て、食てだば、そこさ隣(となり)のひくひく婆コぁ、
「ヒクヒクヒクヒク、火コ呉(け)でけっちゃあ」
て、火コ貰(もら)いに来で、
「先(まん)つ、ぶったまげだ、昨日までおらと一緒だったのが、赤飯ど赤魚コ食ってたもんだ。なんとして、こう親方衆(おやかたしゅ)になったのか」
て、聞いだけど。
「おら家の爺さしシャ、町さ行っだば、地蔵様ぁあんまり濡(ぬ)れでかわいそうだどて、笠コかぶしぇで来たけどヨ。
したば昨夜ナ、布団がら、着物がら、味噌、野菜、鮭っコまで、一杯御礼だどて呉(け)で行ったどヨ。それで今、御馳走(ごちそう)になってたどこだった」
て、教えだば、
「ンだば、おらも権四郎爺(ごんしろうじんじ)どごやってみるべ」
っていうわけで、爺どご町さやったけど。
とごろが、隣の爺はしみったれ爺で、笠買う銭(ぜに)コいたましぐなって、よその家がらさん俵(だわら)貰って、地蔵様にかぶしぇで来だけどヨ。
しだば、やっぱり二、三日したば、
「権四郎爺、せぇんどぁ、さん俵 かんぶんだ ガラガラッ」
「権四郎爺、せぇんどぁ、さん俵 かんぶんだ ガラガラッ」
て、車ひいで来て、置いで行った音しだけずぉん。
そごで、次の朝、とっぴょうしもなぐ起きて、こりゃすばらしい物ぁ入ぁてだべナ、ど思って、大急ぎで蓋(ふた)とって見たば、なんと、米俵だらけだ。瓦(かわら)に欠けた瀬戸物(せともの)だの、その外、蛇(へび)だの、蛙(かえる)だの、けら虫、蜂(はち)だのばかり入ってで、爺と婆どこ蜂ぁ刺す、蛇ぁかじる。
欲ばり爺と婆ぁ、オエン、オエンて泣ぎながら、やっと隣さ逃(に)げで行ったけど。
挿絵:福本隆男
そういうもんだから、あんまり欲だげだり人の真似(まね)ぁばりするもんで無ゃナ。
とっぴんぱらりのぴい。
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とんとむかし。あるお寺に、たいそう鮎(あゆ)の好きな和尚(おしょう)さんがあったと。ところが、お坊(ぼう)さんは魚や肉を食べてはいけないことになっていたから、和尚さんはいつも、小僧(こぞう)さんに隠(かく)れてアユを食べていた。
むがし、あるところにひとりの若者があって、長いこと雄猫(おすねこ)を飼(か)っていたと。 そうしたところが、この猫がいつもいつも夜遊びをするので、あるとき、若者は猫のあとをつけてみたと。
「地蔵様と笠っコ」のみんなの声
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