民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 不思議な誕生の子供の冒険にまつわる昔話
  3. 戻った小指ボッツ

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

もどったこゆびぼっつ
『戻った小指ボッツ』

― 宮城県 ―
語り 井上 瑤
再話 佐々木 徳夫
整理 六渡 邦昭

 むがす、むがす、あっとこぬ(に)、子持たずのお爺んつァんどお婆んつァんが居(い)だんだど。
 二人だげで淋(さび)しくてなんねェもんだがら、
 「なじょな童(わらし)コでもええがら、どうが、授(さず)げて呉(げ)らえッ」
ど、一心に神さんさ、願、掛(か)けたんだど。
 
 ほすてるうずぬ、お婆んつァんの脛(すね)が、赤ぐふぐれ上ってきたんだど。だんだん大っきぐなって、一晩(ばん)大病(おおや)みすたっけェァ、ひとりでぬ破(やぶ)けで、中がら愛(め)んちゃこえ赤ん坊(あかんぼう)が生まれできたんだど。


 大きさが小指ほどなんで、ボッツと名付げで手塩にかげで育てだんだど。
 とごろがボッツは、何時(えづ)までたっても、さっぱり大きくなんねェがったんだど。
 ある日のごど、童コ達が橋の上でコマ回すてたんだど。ほれば見だボッツは、お爺んつァんどお婆んつァんさ、
 「コマ回す、見さ行ってええすか」
ど、聞いだんだど。
 ほすたっけェァ、お爺んつァんどお婆んつァんは、
 「おめぇ、並(なみ)はずれて小(ちゃ)っこいがら、みんなぬ踏(ふ)んづげられだり、風ぬ吹(ふ)っ飛ばされるど大変(てえへん)だがら、行ぐな、行ぐな」
ど、止めたんだど。


 ほだけんども、ボッツがしきりにせがむもんだがら、とうどう負げてすまって、コマ回すば見さやったんだど。
 とごろが、コマ回す見でるうずぬ、サーッと、風が吹いでぎて、ボッツは川さトボンと落どされですまったんだど。
 お爺んつァんどお婆んつァんは、晩げぬなってもボッツが帰(け)ェって来ねェんで、心配で心配で寝(ね)づかれねェがったんだど。
 次の日も、ほの次の日も、またほの次の日も帰ェって来ねェがったんだど。 
 ほんで、お爺んつァんどお婆んつァんは、諦(あきら)めでボッツが好きだった鮭(さけ)でも神棚(かみだな)さ上げっぺェど思ったんだど。
 ほごで、お爺んつァんは、町へ行って鮭ば買ってきたんだど。

 お婆んつァんが、包丁でほの鮭は切っぺェどすたっけェァ、腹(はら)ン中がら、
 「そっと裂(さ)げ、そっと裂げ」
どゆう声がすたんだど。


 お婆んつァんは、不思議(ふすぎ)ぬ思って、そっと裂いで見だっけェァ、死んだと思ったボッツが飛び出すて来たんだど。
 お爺んつァんどお婆んつァんは、
 「えがった、えがった」
ど、ゆうて、うんと喜んだんだど。ほすて、
 「おめえ、鮭の腹ン中さ、なすて入(へえ)ったんだ。なんぼが苦すがったべェ」
ど、ゆったけァ、ボッツァ、
 「おらァ、コマ回す見てるうずぬ(ちに)、風ぬ吹っ飛ばされで、川さ落つですめェすた。

 ほすて、鮭ぬ(に)丸呑(の)みされたげんども、鮭の腹ン中ぬ腹子がいっぺぇあって、ほの腹子さ、おらの顔がひとづ、ひとづ映(うつ)るもんだがら、うんと面白がった。
 晩げは、腸(はらわた)ば枕(まくら)ぬすて、のうのう寝(ね)すた。
 ほだげんども、今日はなすてだが、うんと苦すくて仕方がねがった」
ど、ゆったんだど。


 ほしたら、お爺んつァんどお婆んつァんは、
 「ほだべェ、ほだべェ。この鮭、二、三日店晒(たなざら)すされでだんでェァへたすりゃおめえ、死んですまったべェ。これがらは、ゆうごど聞けよ」
ど、ゆったんだど。
 このごどがあってがら、ボッツは、すっかり懲(こ)りで、お爺んつァんどお婆んつァんのゆうごどば、よっく聞くようぬ(に)なったんだど。
 
 こんで めでたす めでたす。

「戻った小指ボッツ」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

楽しい

めちゃくちゃ笑いました。 笑えて子供が寝ませんでした(笑)( 40代 / 女性 )

こんなおはなしも聴いてみませんか?

味噌買橋(みそかいばし)

むかし、あったと。飛騨乗鞍(ひだのりくら)の奥山(おくやま)深く分け入った中に沢上(そうれ)という谷があって、長吉(ちょうきち)という正直な炭焼きが…

この昔話を聴く

狐と狸の化かしあい(きつねとたぬきのばかしあい)

とんと昔もあったげな。狐と狸とあったげな。昔から、“狐は千年昔のことを識り、狸は三日先のことを知る”ということだそうな。あるとき、狸が山道をと通っていたら狐と出逢うたそうな。

この昔話を聴く

蜘蛛の恩返し(くものおんがえし)

 昔、あるところにひとりの兄さまがあったと。  ある晩げ、天井から一匹の蜘蛛がおりてきた。  夜、蜘蛛が家に入ってくるのは縁起が悪いといわれているので、兄さまは、  「クモ、クモ、今晩何しておりてきた」 といって、蜘蛛を囲炉裏の火にくべようとした。そしたら蜘蛛が、  「兄さま、どうか助けで呉」 というた。

この昔話を聴く

現在886話掲載中!