― 鹿児島県熊毛郡 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、ある船が都で荷を積んで船出したそうな。
ところが、途中で風向きが変わって、船は、どんどん流されてしまったと。
いく日も、いく日もかかって、やっと見知らぬ島の入江に吹き寄せられ、いかりをおろすことが出来たそうな。
船の中には、飲み水が、もう、無くなっていたと。そこで、一人の船乗りが桶(おけ)をさげて陸(おか)に上がったと。
島は、しげしげと木におうわれているのになかなか水場が見つからない。水を求めて森の奥へ奥へと入り、ようやく泉を見つけたそうな。
ところが、船乗りが喜んでまず水を飲みそれから桶に汲み入れてひと休みしている時だった。うしろで物音がするので、ひょいとふり向いて心臓がはれつするほど魂消て終った。
「ウヒャ―、め、め、めひとつ五郎だあ」
何と、一つ目の大男が恐ろしげに船乗りを見下ろしておったそうな。しかも、その目は炎が燃えあがるようにギランと光っておる。
その泉は、目一つ五郎の水呑み場だったと。
船乗りは、地(ち)を這(は)いつくばって逃げようとしたが、腰が抜けてどうにもならん。
地面をひっかいているうちに、目一つ五郎の大きな毛むくじゃらの手がのびて首すじをむんずとつかまえられてしまった。
目一つ五郎は、船乗りをぶら下げて山の上へ上へと登って行き、やがて、岩がゴツゴツせり出した崖(がけ)の下にある洞穴(ほらあな)に着くなり、その中にポイと投げ入れた。
「人間とは久し振りだ。いいエサを見つけた」
そうつぶやくと穴の中で火を焚き始めた。
「こりゃぁ大変だぁ、丸焼きにされて食われちまう」
船乗りは、恐ろしくなって、洞穴の奥へ奥へとあとずさって行ったそうな。すると、奥には何やら大きな生き物が動きまわっておる。
暗さに目をならしてから見ると、それは、何十頭もの馬だったと。
船乗りは、その馬を見ているうちに、いい考えがひらめいた。
目一つ五郎は、ゴンゴン燃える火の側であぐらをかき、木を削ることに夢中になっている。
『あの木で俺らを田楽差(でんがぐざ)しにするつもりだな。そうはなってたまるか』
船乗りは、そおっと目一つ五郎の後ろから忍び寄ると、パッと飛び出し、まっ赤に燃えているまきを一本つかむやいなや、いきなり目一つ五郎の目に突っ込んだ。
「ギャ―」
ものすごい声をあげた目一つ五郎は、
「どこじゃぁ、どこにおる」
と、わめきさけびながら手さぐりで船乗りをつかまえようとしたそうな。
が、船乗りは、その手をかいくぐって馬の間を逃げまわるので、いっこうにつかまらん。
業(ごう)を煮(に)やした目一つ五郎は、そのうち、
「こらぁ この馬共を出してしまわんば、あいつをとって食えん」
そう言って馬を一頭づつ外へ出し始めた。手で触っては「これも馬じゃ、これも馬じゃ」と出すんだと。
船乗りは、洞穴にあった馬の皮をかぶって、馬のあとからついていった。
すると、目一つ五郎はそれをなぜて、
「これも馬じゃ」
と言って通してしまった。
船乗りは命からがら転がるように山を馳け下りたと。
やっと逃れた船乗りは、途中いそいで水場へ行って桶に水を汲み、船に戻ることが出来たそうな。
そいぎのむかしこっこ
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むかし、あるところに旅商人の小間物売りがおったと。 小間物売りが山越(ご)えをしていたら、途(と)中で日が暮(く)れたと。 あたりは真っ暗闇(やみ)になって、行くもならず引き返すもならず途方に暮れていたら、森の奥(おく)に灯りが見えた。
「目ひとつ五郎」のみんなの声
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