民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 世間話にまつわる昔話
  3. やきもち

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

やきもち
『やきもち』

― 秋田県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭


 昔、あるところに木樵(きこ)りの夫(おっと)と女房(にょうぼう)とがあったと。
 夫は山に泊(と)まって木樵りにせいを出し、伐(き)った木が貯(た)まると、それを担(かつ)いで山を下りる暮(く)らしだったと。
 山から下りてきたときは、顔じゅうヒゲぼうぼうはやし、そのまんまの姿(すがた)で町に木を売(う)りに行く。

 
 ところが、山に入る日の朝になると、水ごりをして、ヒゲをそり、髪(かみ)もきれいになでつけて、景色(けしき)のいい男になる。女房は、
 「おれの夫(てて)は、おれの前ではちいっとも身(み)なりにかまわないのに、山さ入るときは、いっつも男振(おとこぶ)りをみがいて、きれいになって行く。もしかしたら、山さ仲(なか)のいい女(おな)ごでも居(い)るんでねえべか」
と思うて、胸(むね)やけてならんかったと。
 
やきもち挿絵:福本隆男

 
 あるとき、どうにも胸やけてらまらんようになった。で、夫が仕事(しごと)をしている山をこっそりのぞきに行ったと。
 コーン、コーンという木を打(う)つ斧(おの)の音を頼(たよ)りに、近づくと、居た。

 夫は危(あぶ)なげな崖(がけ)におがっている木を伐っていた。ところが、その夫の腰(こし)をうしろから、しっかり掴(つか)まえているものがいる。
 「はて、夫は一人仕事のはずだがなあ」
と思って、ようっく見たら、これがなんときれいな女ごだ、女ごが夫が崖から落(お)ちないように支(ささ)えている。
 
 頭(あたま)に血(ち)が登(のぼ)った女房は、
 「そらぁ、そらぁ、そういう女が居たのだあ」
と言うた。言うたら、きれいな女ごが手を離(はな)した。

 
 離したとたんに、きれいな女ごの姿が消(き)え、夫は崖から落ちて死んでしまったと。
 
 そのきれいな女ごは、山の神様(かみさま)で、夫の危(あぶ)ない仕事を守(まも)ってくれていたのに、女房のやきもちで、命(いのち)失(な)くしてしまったと。

  とっぴんからりのぷう。

「やきもち」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

怖い

女のやきもちは恐ろしい!やきもちも、ほどほどにしないといけないなと思いました。( 30代 / 女性 )

悲しい

かわいそう…夫を信じればよかったのに…( 10歳未満 / 女性 )

こんなおはなしも聴いてみませんか?

船幽霊(ふなゆうれい)

むかし、ある年のお盆の夜のこと。ある浜辺から、一隻(いっせき)の船が漁(りょう)に出掛けて行った。その晩は、風も静かで、空にも海にも星が輝き、まるで…

この昔話を聴く

たぬきの火の用心(たぬきのひのようじん)

むかし。武蔵国のある村に、いたずらなタヌキがこっそりすんでいたと。いたずらでな、嫁どりの土産をもって千鳥足で帰っていく三平どんを見つけると、ドロンと、きれいな娘さまに化けて

この昔話を聴く

一時に咲いたソバの花(いっときにさいたそばのはな)

ずっとむかし。九州の天草の島々には、キリスト教を信じる沢山の人々がおった。ところが豊臣秀吉や徳川家康は、キリスト教は外国からきたよくない宗教だから信…

この昔話を聴く

現在886話掲載中!