― 岩手県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
昔、まんずあるところに、額(ひたい)に拳骨(げんこつ)ほどのでっこい瘤(こぶ)のある樵(きこり)の爺(じい)さまがあったど。
ある日、山へ行って、もう一本、もう一本ど木ィ伐(き)ってるうちに夜になったど。家にも帰れなぐなったので、山のお堂コさ這入(はいい)って、その晩は泊まったど。
したれば夜中頃になって、どやどやっど、天狗(てんぐ)さまたちがやって来て、お堂コの前で車座になって、酒盛り始めたど。
そのうち、テレスケ、テレスケど、手ェ叩(たた)き、足ィ叩きする拍子とりがいで、踊(おど)りが始まったど。
足をくねくね、手首をひらひら、テレスケテレスケど、それは面白い踊りで、テレスケ舞いどいうもんであったど。
あんまり楽しげで、お堂コの中でのぞき見したっだ爺さまの手足も、つられて動き出したど。
初めは天狗さまたちに気(け)どられねぇように、ひらひら、くねくねしだったが、しまいにゃあ、そんなことも忘れで、
〽 天狗 天狗 八天狗
おれまで加ぜれば
九っ天狗
と、つい、お堂コから踊り出てしまったど。したれば天狗さまたちは、
「ややっ、これは面白い爺だ」
ど、やんや、やんやど囃子(はやし)たてたど。
挿絵:福本隆男
爺さまが天狗さまたちど一緒に呑(の)んだり食ったり踊ったりしでいたら、どこかで、
「コケコッコー」
ど、一番鶏(いちばんどり)が啼(な)いたど。
したれば、天狗さまたちゃあ、
「今夜はこれで終わるが、明日の晩また来て踊れ。とぎに、明日もきっと来るどいう、何かしるしを置いでってもらいだいが、そんだ、その瘤ば預がって置く」
ど、額の瘤ば、ぽつんど、もがれてしまったど。
爺さまは、邪魔(じゃま)になる瘤ばとられたので、内心では大層(たいそう)喜んだが、わざと慌てた気振り(けぶり)して、
「それはおらの大切な宝瘤(たからこぶ)だ。その瘤とられては頭が軽すぎで、うまく歩けねえだ」
ど、わざとひょろけてやっだど。 天狗たちは、
「そんだらば明日の晩来(こ)う。返してやるがら」
ど、どごがさ行ってしまったど。
瘤が無くなった爺さまが喜んで家に帰ると、隣(とな)りの爺が訪ねて来たと。
「お前(め)、コブ、どうした」
ど聞くから、こうで、こうで、ど語ってやったど。
「そんだらば、おらも取ってもらって来る」
どいっだど。隣りの爺にも額にでっこい瘤があっだど。
隣りの爺、次の晩げ山に出がげで行ったど。
するとまた夜中頃になるど、天狗さまだちゃあ、どがどがっでやって来たど。して、テレスケ、テレスケどテレスケ舞いを始めたど。
隣りの爺、一緒になって踊りに出たが、昨晩のように囃(はや)せどいわれでも、さて、囃子言葉(はやしことば)をしらないもんで
〽 天狗 天狗 八天狗
赤面天狗(あかづらてんぐ)の
鼻欠けろ
どやってのけたど。
したれば天狗さまたちゃあ、
「なんだ、この爺。折角(せっかく)の踊りも興(きょう)がさめる」
ど、えらく怒って、昨日預かった瘤まで、ぴったりどひっつけたので、隣りの爺、瘤の上に瘤が重なる二段瘤になって、泣ぎ泣ぎ家に帰ったど。
そんだから、人真似(ひとまね)はしないもんだど。
どんとはらい。
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「瘤とり爺」のみんなの声
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