民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 面白い人・面白い村にまつわる昔話
  3. 茗荷もの忘れ

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

みょうがものわすれ
『茗荷もの忘れ』

― 岩手県 ―
語り 井上 瑤
再話 大島 廣志
再々話 六渡 邦昭

 むかし、あるところに一軒の宿屋があった。
 この宿の主人はとても欲が深く、部屋に忘れもんがあると、みんな自分のものにしてしまうような人だったと。
 あるとき、年のころは五十位、くるくる丸い目の旅の人がやって来た。身なりのよい人で、背中に縞紋様(しまもよう)の風呂敷をしょっていた。
 「一晩やっかいになりますよ」
 「さあ、どうぞ、どうぞ」
 主人はにこにこして、旅の人を部屋に案内した。そして帳場に戻り、
 『今の客は、そうとう金を持っているようだな。何とか、あの風呂敷包みを獲(と)ることは出来んものか』
と考えた。しばらくして、ひざをポンと打つと、
『そうだ、茗荷を食べさせよう。茗荷を食べると物忘れをするというから、茗荷を食べさせればいい』


 と思うた主人は、早速女房を呼んで、
 「さっきのお客さんには、茗荷をたくさん食べさせておくれ」
と言々つけた。
 女房は言われた通り、夕食には、たあ―んと茗荷を盛りつけて出した。
 そうしたら、お客さんは、
 「これはうまい、これはうまい」
というて、山盛りの茗荷をみんな食べてしもうた。
 
茗荷もの忘れ挿絵:福本隆男


 喜こんだのは宿屋の主人だ。明日はきっと、あの風呂敷包みを忘れて行くに違いない、と思うて、ほくほくしておった。

 次の日の朝、お客さんは、女房に、
 「きのうの茗荷はとてもおいしかったですよ。どうもお世話になりました」
と言うと、宿を出て行った。
 客の帰ったことを聞いた主人は、さっそく客の泊った部屋にかけ込んだ。
 ところが、風呂敷包みはどこにも無い。それどころか部屋の隅から隅まで探しても忘れ物はひとつも無かった。
 「はてさて、弱ったな。あれほど茗荷を食べさせたのだから、何か忘れ物(もの)があるだろう」
と、よくよく考えてみた。そうしたら、宿賃をもらっていないことに気がついた。何のことはない、お客さんは宿賃を払うのを忘れていったのだ。


 主人はあわててお客さんを追いかけた。けれども、追っても追っても追いつけない。
 それで会う人ごとに、
 「もうし、もうし、年のくるくる目が五十、縞紋様の男をしょった風呂敷を見かけなかったか」
と、尋ねてみたが、笑われるばかりで、とうとうお客さんは見つからなかったと。
 だから、あんまり欲が深いと、いいことはないんだよ。

「茗荷もの忘れ」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

楽しい

めっちゃさいこうでおもしろかった!もういっかいよみたいくらい。( 10歳未満 / 女性 )

驚き

茗荷大好きなんですが・・・欲張りはダメですね!( 40代 / 女性 )

こんなおはなしも聴いてみませんか?

大アワビの怒り(おおあわびのいかり)

昔、上総(かずさ)の国(くに)、今の千葉県浪花村(なみはなむら)という海辺の村に伝わるお話。この村の海の沖には、なんと傘を広げたほどの、それは大きな…

この昔話を聴く

山の神のお産(やまのかみのおさん)

昔、羽後(うご)の国(くに)、今の秋田県の阿仁(あに)地方に、小玉(こだま)の越中(えっちゅう)と杉(すぎ)の宮(みや)の清十(せいじゅう)ていう狩…

この昔話を聴く

どくれの万六(どくれのまんろく)

 むかし、土佐(とさ)の窪川(くぼかわ)に万六という男がおった。地主の旦那(だんな)の家で働く作男(さくおとこ)だったが、お城(じょう)下から西では誰(だれ)ひとり知らぬ者がないほどのどくれであったと。

この昔話を聴く

現在886話掲載中!