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しっぽのつり
『尻っ尾の釣り』

― 石川県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 昔々あったと。
 あるとき、兎(うさぎ)が川の縁(へり)へ出てみたら、一匹の川獺(かわうそ)が川の中から魚を捕(と)って来て、うまそうに食うておった。それを見た兎は、魚が欲しくて欲しくてたまらんようになった。
 「川獺どん、川獺どん、上手に魚を捕ってくるなぁ。私にもその捕り方を教えてくれんかい」
と頼んだと。
 そしたら川獺は、兎のこと、ひとつだましてやろうと思うて、
 「なに、簡単なことだ。お前の尻っ尾を川の中へ長々つけて待っていれば、それへ魚めがきて食いついて重たくなる。その時、

 〽 魚の目じゃ、フントコセー。
  魚の目じゃ、フントコセー。


 って、呪文(まじない)を言うて尻っ尾を引きあげると、魚めが尻っ尾にいっぱいぶらさがってくる。やってみなよ」
というてやった。
 兎はだまされたとはちょこっとも知らんと、尻っ尾を川の縁の水の中へつけて、魚の食いつくのを待ったと。
 その日は冬の真最中(まっさいちゅう)の寒い寒い日であったと。
 兎が尻っ尾を長々と川の水の中につけていたら、川の水がだんだんにこおってきて、尻っ尾も氷づいてしまったと。
 兎は尻っ尾が重たくなってきたのを、
 「大分(だいぶ)、魚めが食いついたな。なかなか重たくなってきたわい。こりゃ本当にいいことを教えてもろうたもんじゃ。おっ、またツンと当たりがきた。この分なら十匹もくいついておるに違いない。そろそろ引きあげてみるか」
と、思い違いして、

 〽 魚の目じゃ、フントコセー。
  魚の目じゃ、フントコセー。

 と呪文(じゅもん)を言うて、尻っ尾を引きあげた。が、あがらんかった。

 
 「こりゃ、よっぽどでっかいのが食いついているに違いない」
と、ほくほくして、もう一度力んで引っ張ったと。それでも尻っ尾は引き上がらん。
 今度はありったけの力を入れて、尻を持ち上げた。そしたら尻っ尾は根元からポツンと千切(ちぎ)れてしまった。そのはずみで、前の石へいやというほど口をぶっつけたと。
 口は三つに割れて血がポタポタ出るし、痛くて痛くて、涙がいっぱい出たと。後ろを振り向いたら、まっ白い結構な尻っ尾がカンカンに凍(こお)って、氷の上に立っている。魚めは何も食いついていない。
 こうなって、はじめて川獺にだまされたと気がついたと。
 
 腹が立って、腹が立ってしょうがない。おまけに、割れた口と尾のない尻が痛くて痛くてたまらない。泣く泣く山の中へかけて行ったと。
 昔は兎にはフサフサした尻っ尾があったが、この時から、短くなったのだそうな。また口が三つに割れたのも、目がまっ赤になったのも、みいんな、みいんな、このときからだそうな。

 それで、そうらいきり。

「尻っ尾の釣り」のみんなの声

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