― 石川県 ―
語り 井上 瑤
再話 大島 廣志
むかし、能登(のと)の国(くに)の海辺(うみべ)の村に、刀鍛冶(かたなかじ)が暮らしておったと。
働(はたら)き者で、トテカ-ン、トテカ-ンという刀を打つ槌(つち)の音が聞こえない日はないほどだったと。
この刀鍛冶には娘が一人(ひとり)あった。
気立(きだ)ては優(やさ)しいし、器量(きりょう)もいいしで、まあず、いとしげな娘だったから、あちこちの村々から若者が「嫁にくれ、嫁にくれ」と、やってくるんだと。
刀鍛冶は、そのたんびに
「一番鶏(いちばんどり)が啼(な)くまでに、刀を千本作ったら嫁にやる」
と言うていた。
若者たちは、それを聞くと、
「刀、千本なんて無理だ。一本だって作れやせん」
ちゅうて、みんなすごすごと戻っていったと。
ある夜のこと、
見知らぬ若者がやってきて、娘を嫁にくれと言う。
刀鍛冶は、いつものように、
「一番鶏が啼くまでに、刀を千本作ったら嫁にやる」
といいながら、よくよく見ると、姿もたくましく、りりしい若者であったと。
「刀、千本だな、わかった。夜明けまでにきっと千本仕上げてみせよう」
こう言うと、仕事部屋へ入って、さっそく、カ-ン、カ-ンと刀を作り始めた。
「どうせ、一晩に刀千本なんぞ作れるはずはない」
刀鍛冶は、気にもせずぐっすり寝たと。
夜明け近くになって、ふと目をさますと、カン、カン、カン、カンと刀を作る音が早くなっている。
「こ、こりゃぁただもんじゃぁないぞ」
刀鍛冶が、そおっと仕事場をのぞいて、腰が抜けるほどたまげた。なんと、そこにいたのは若者ではなく、鬼(おに)であったと。
鬼が、まっ赤(か)になった鉄(てつ)のかたまりを手でつかみ、口(くち)からブォ-、ブォ-ッと熱い息を吹きつけては鉄を引き延ばして、カン、カン、カン、カンと槌を打って、次から次へと刀を作っているんだと。仕事部屋には刀が山のように積まれていたと。
「このままじゃぁ、娘を鬼にとられてしまう、何とかせにゃぁ」
刀鍛冶は考えた。いそいでお湯をわかし、鶏(にわとり)小屋へかけこんで、鶏の止まっている木にお湯をジャ-とかけた。おどろいたのは鶏だ、急に足元が温(ぬく)くなったから、あわてて、
「ケケ、ロッコ-」
と一声啼いた。
それを聞いた鬼は、
「しまったあ、一番鶏が啼いたか、エエイいまいましい。あと一本で千本だというのに。こうしてはおられん」
鬼は、出来上った刀を両脇(りょうわき)にかかえあげると屋根を跳(け)破って、海辺へ向って飛ぶように逃げ出したそうな。
刀鍛冶は、それを見ると、声を限りに叫んだそうな。
「お-い、お前のかたみに、刀、一本、おいてけや-い」
しばらくすると、海の彼方(かなた)から、刀が一本、ビュ-と飛んできた。
その刀には、"鬼人大王(きじんだいおう)・波平行安(なみのひらゆきやす)"と、鬼の名前がほってあったと。
それ以来この村を剣地(つるぎぢ)、つまり、昔は刀のことを剣(つるぎ)ともいっていたから、刀の地を意味する剣地というようになったんだと。
本当だよ、石川県鳳至郡門前町剣地(いしかわけんふげしぐんもんぜんまちつるぎぢ)へ行ってごらん。村の人が、鬼の刀鍛冶の話をしてくれるから。
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とんと昔、あるところにオドとカカがおったと。初児(はつご)子のお産が始まって、カカがウンウン唸(うな)っているそばで、オドは気ぃもめて気ぃもめてなら…
「鬼と刀鍛冶」のみんなの声
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