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うぐいすにょうぼう
『鶯女房』

― 新潟県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 昔、あるところに一人の男があったと。
 あるとき、村で牛の角突きがあったと。
 男は牛の角突きを見に行ったと。
 そしたら、たくさんの見物人のなかに、今まで見たこともない器量(きりょう)のいい娘が一人、目についた。
 「はてな、あの娘は村の者ではないが、どこの者だろう」
 男は牛の角突きなんぞ見向きもしないで、その娘ばかり見ていたと。 

 
 やがて、牛の角突きが終わって、見物人が帰りはじめたと。娘も帰るようだ。男は、娘のあとをつけた。娘は山道を山の奥へ奥へと行くそうな。
 「はて、こんな奥山に、こんな道があったかなぁ。今まで、見たことも聞いたことも無いような気がするが。はて、どうだったかあ」
と、不思議がりながら、なおも娘のあとをついて行ったと。
 どれくらい歩いたか、いきなり道の突き当たりに、大っきなお屋敷(やしき)が建ってあった。
 娘の姿が見えなくなっていたので、きっとあのお屋敷に入って行ったのだろうと思い、男も訪(たず)ねて行ったと。
 「申(もう)し、申し」
と、声を掛けたら、あの娘が出てきたと。
 「なれない山で、道に迷うてしもうたが、今夜一晩泊めてもらえんだろうか」
 「ここには私一人しかおりませんが、それでよかったら、どうぞお泊り下さい」
 娘はよろこんで泊めてくれたと。

 
 娘はつい今しがたお屋敷に帰り着いたはずなのに、もう風呂(ふろ)も沸(わ)いていて、背中も流してくれた。
 風呂からあがると、いい着物を着せられ、二人分のお膳(ぜん)が用意されてあって、ごちそうがいっぱいあった。酒までついていた。
 男は娘と差し向かいで、夢心地(ゆめごこち)で食い、呑んだと。
 こうして男は一晩泊まり、二晩泊まり、また一晩泊まりしているうちに、もう家へ帰ることも忘れて、いつしか二人は夫婦(めおと)になったと。

 そうして暮らしていたある日、娘は男に、
 「今日は私、町へごちそうを買いに行ってきます。お留守(るす)をお願いしますね。私の居ない間、奥座敷(おくざしき)だけはどんなことがあっても決して見ないで下さい。約束して下さいますか」
と、言うた。男は、
 「あ、あぁ、わかった。決して見ない」
と、約束したと。
 娘が出て行ったあとで、男は、奥座敷が気になって、気になってならない。


 「ああは約束してみたけれど、見るなと言われればなおさら見たい。ちょっとだけなら」
 男は、奥座敷のふすまを、ちょっとだけ開けたと。
 「片目くらいじゃ、よく見えん」
と言うて、もうちょっと、もうちょっと、と開けて、とうとう体が入る分位開けたと。
 その部屋は、ぽかぽかした春の山のきれいなきれいな景色で、梅の花が咲いていて、鶯(うぐいす)が一羽、梅の木の枝にとまっていて、ホウホケキョと啼(な)いているのだと。
 やがて、娘が帰って来て、涙をぽろぽろ落として、
 「奥座敷だけは決して見ないで下さいねとあれだけ頼みましたのに、どうして見たのです」
と言うたかと思うと、もう一羽の鶯になって、外へ飛んで行ってしまったと。
 男はしばらくあっけにとられていたが、気がつくとお屋敷はなく、山の藪(やぶ)っ原のただなかに胡坐(あぐら)かいておったと。 

 いちごさけた、どっぺん。 

「鶯女房」のみんなの声

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