民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 頓知のきく人にまつわる昔話
  3. 江差の繁次郎「観音と休み」

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

えさしのしげじろう かんのんとやすみ
『江差の繁次郎「観音と休み」』

― 北海道江差町 ―
語り 平辻 朝子
再話 佐々木 達司
整理・加筆 六渡 邦昭

 江差(えさし)の繁次郎(しげじろう)は怠け者であったと。
 ニシン場(ば)では、次から次へと水揚(みずあげ)されるニシンを、モッコに入れて運ぶ者、仕分(しわ)けする者、腹子(はらこ)をかき出す者、ミガキ用に干(ほ)す者と、皆々まるで戦場のように忙がしく働いているというのに、繁次郎は働くのが嫌で仕方がない。何とか働かなくてすむ方法はないものかと思案(しあん)したと。やがてニンマリすると親方のところへ行った。神妙(しんみょう)な顔をして、
 「親方(おやかた)、ひとつ頼(たの)みごとあって来たジャ」
 「何だバ、繁次郎」
 「俺、今度、観音(かんのん)さま信心(しんじん)することにしたバテ良(よ)ごすべガナ」


 「良いも何(な)も、繁次郎ァまだ、どうしたテ、そした心持(こころもつ)ネなったバ」
 「親方ァ恵比寿(えびす)さま信心しているのをみてサ、俺もなんか信心するべと思ったベサ」
 親方、すっかり感心したと。
 「そうか、そうか」
 「そこでひとつ相談あるベサ、観音さまの日だけ、俺バ休ませて呉(け)ヘンガ」
と頼んだ。親方は、
 「それァいいことだ。観音さまの日ァ、今度から休んでもよいハデ」
と、許してくれたと。


 それからというもの、繁次郎は毎日毎日ぶらぶらぶらぶらするようになった。親方が、
 「繁次郎、毎日遊んでねデ、少しは仕事したらどうだバ」
と叱ると、繁次郎は口(くち)をとがらせて、
 「したバテ親方ァ、観音さまの日だバ休んでもいいテ、して呉たっショ」
というた。
 「観音さまの日だば休んでいいバテ、あどの日働けばいいデバ」
というたら、繁次郎、ここぞとばかりに澄(す)まして、
 「観音さまァ三十三あるもだネ。一ヶ月ァ三十日だハデ、毎日休んでも、親方サ三日ずつ貸しがあるデバ」
 こういうた。
 親方ァ、目を点にして、開いた口がふさがらなかったと。

 
江差の繁次郎「観音と休み」挿絵:福本隆男
 
 繁次郎は、毎日遊んで手間賃(てまちん)をもらったと。

 とっちぱれ。

「江差の繁次郎「観音と休み」」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

驚き

私もこの手を使おうかな????( 40代 / 女性 )

こんなおはなしも聴いてみませんか?

一人参宮(ひとりさんぐう)

昔、昔。あるところに分限者(ぶげんしゃ)の家があって吉之助(きちのすけ)ていう人いてあったすと。小さいときは体弱くて、少し風吹けば風邪(かぜ)ひくし…

この昔話を聴く

夢買い長者(ゆめかいちょうじゃ)

 とんと昔があったけど。  あるところに正直な爺(じ)さと婆(ば)さがあって、その隣りに欲深爺(よくふかじい)と婆があったと。  ある正月元旦に、隣の爺が婆に、「婆、婆、おら妙な夢を見たや」…

この昔話を聴く

母狐(ははぎつね)

昔、あるところに御殿医(ごてんい)がおったげな。御殿医ち言うんは、お城のお殿さんや奥方(おくがた)、ご家老(かろう)とかが病気になった時にかかる、身…

この昔話を聴く

現在886話掲載中!