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しにんとるすばん
『死人と留守番』

― 群馬県明治村 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところに旅商人の小間物売りがおったと。
 小間物売りが山越(ご)えをしていたら、途(と)中で日が暮(く)れたと。
 あたりは真っ暗闇(やみ)になって、行くもならず引き返すもならず途方に暮れていたら、森の奥(おく)に灯りが見えた。 
 「やれやれ助かったぁ」
いうて、灯りのついている家へ行ったと。

 
  「今晩(こんばん)は」
いうて戸を叩(たた)いたら、若者が出て来た。小間物売りが、
 「山越えで向うの里へ行く途中ですが、こう暗くては行くもならず困(こま)っております。灯りが見えましたので寄(よ)らせてもらいましたが、誠(まこと)にすまんことですが一晩(ばん)お宿してもらえんでしょうか」
というと、若者は、
 「それはいいが、今日は出来事があって、おれはこれから急いで里へ行って来なくてはならん。何のもてなしも出来んし、あんたにここで留守番してもらうことになるが、それでもいいかね」
というた。 
  小間物売りが、
 「はぁ、それぐらいのことなんでもない」
というと、若者は、
 「実は今日、看病(かんびょう)のかいなく女房(にょうぼう)が死んでしまった。里の衆(しゅう)を呼ばなければならないんだ」
というた。

 
 小間物売りは、死人と一緒(いっしょ)じゃ嫌(いや)だなと思うたが、一度承知(しょうち)したものを後には引けず、
 「いってらっしゃい」
と強がりいったと。
若者が出掛(か)けたあとには、お灯明(とうみょう)のローソクがゆらゆらゆれていたと。
 小間物売りは、座敷(ざしき)の死んだ若者の女房がいる布団(ふとん)に背を向けて、囲炉裏(いろり)にたきぎをどかどかくべたと。
 
 それでも気になって気になって、目のはしでチラッチラッと布団の方を見ていたら、何かが動いたと。どきっとして、恐(おそ)る恐る顔だけ向けて見てたら、布団の中から、細くて白い手が出てきて、こう、もぞらもぞら動いてお供(そな)えのまくら団子をひとつつかんで、すっと布団の中へひっこんだと。

 
 小間物売りはおっかなくて、おっかなくて、逃(に)げ出そうとしたけど、身がすくんで動けない。そしたら、また、細くて白い手が出て来て、まくら団子をひょいとつかんで、すっと布団の中へひっこんだ。

 おっかねえなぁ、と火をどんどん燃(も)やしたら、火にかかっていた茶釜(ちゃがま)が、ごとごと煮えたって、妙(みょう)な臭(にお)いがして来た。 
 ふたをとってみたら、茶釜の湯に子供の頭が浮(う)いていた。小間物売りは、
 「ひぇっ」
というて、あわてて茶釜のふたを戻(もど)して、火も消したと。そしたら居間(いま)は真っ暗になった。明かりといったら、座敷の仏(ほとけ)さまの前のローソクのお灯明だけだった。
 
 目をそっちに向けたとたんに、また、細くて白い手が出てまくら団子を取る。
 もうだめだぁ、おっかなくてしょうがねぇと、逃げ出そうと立ちあがったら、ひょいと何かに足をつかまれたと。
 「ぎゃぁ」
というて、小間物売りは気絶(きぜつ)をしたと。

 
 気がついたときは、あたりがようやく白みはじめた頃(ころ)で、若者が里の衆を何人か連れて帰って来たところだったと。
小間物売りが、夜にあった出来事を話すと、若者は、
 「布団から白い手を出したのは、うちの子供だ。おっ母が死んであんまり泣くもんだから一緒に寝(ね)かせておいた。腹(はら)が減(へ)ったんで、まくら団子を食べていたんだべ。 
 茶釜の中の物は、猿(さる)の頭だ。猿の頭を煎(せん)じて飲ますと女房の病気にいいちゅうんで、煎じていたんだ。
 あんたの手と足をつかんだのは、子猿を飼っていたんで、きっとじゃれついてたんだべ」
というたと。
 
 そういう話。

「死人と留守番」のみんなの声

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ドキドキしました! 最後に全部の真相が分かって スッキリ!!( 20代 / 女性 )

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子どもと2人、ドキドキしながら聴きました。最後のオチを聞いて2人で笑顔に、怪談じゃなかった!って。 スマホで聴くと、挿絵も楽しめていいですね!電話代もかからないし。( 40代 / 女性 )

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