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はなたれこぞうさま
『はなたれ小僧さま』

― 新潟県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 昔、あるところに、貧乏(びんぼう)な爺(じい)さと婆(ばあ)さがおったと。
 年の暮れになれば、年とり米も年とり魚もかわねばならんので、爺さは毎年山へ行っては門松(かどまつ)を取って来て、それを町へ持って行って、
 「かど松、かど松」
と言って売り歩いておったと。が、全部は売らずに、必ずひとつは残しておいて、帰りに川の橋の上から、
 「竜宮浄土(りゅうぐうじょうど)の乙姫(おとひめ)さまにこの門松あげよう」
と、投げ落としておったと。
 
 ある年の暮れのこと。
 爺さが、いつもの年のように門松を投げ落として帰りかけたら、橋のたもとで、
 「爺さ、爺さ、待ちれ、待ちれ」
と呼ぶ声がするそうな。

 
 ふり返って後ろを見ると、いとしげな娘がおって、
 「おら、竜宮の乙姫さまの使いの者だが、爺さが毎年門松をくれるすけ、乙姫さまが『お礼をしたいすけ、じいさを竜宮へお連れしなさい』と言われた。おれについて来てくらっしゃい」
と、こう言うのだと。
 「そうか、それはありがたいことじゃ」
 「爺さ、爺さ、おらが、目をあけてもいいと言うまで、目をつぶっていらっせぇ」
 爺さが、言われる通りにして娘に連れられて行ってみれば、竜宮は、大層(たいそう)きれいな御殿(ごてん)だったそうな。
 御殿の中には乙姫さまがござらっしゃって、
 「爺さ、爺さ、よう来てくれた。毎年、毎年、門松をありがとう。今日はごちそうをするから、いっぱい食うて下され」
と、珍しいごちそうをずらーっと並べてくれたと。


 爺さは竜宮の踊(おど)りを見ながら、ごちそうを食べたり、蓬莱(ほうらい)の酒を飲んだりしたと。
 「はぁ、もう、いっぺぇごちそうになったすけ、家へ帰らしてもらおう」
 「そんなら、お土産(みやげ)に、この子供をやろう」
 乙姫さまは、爺さに、小さい子供をくれたそうな。見れば身なりも汚くて、なはをたらし、よだれもたらした、きったな気(げ)な子供だと。
 「この、はなたれ小僧(こぞう)さまを大事にしれや。この子に、欲しい物を頼めば、何でも出してくれるすけ」
 そう言われて、爺さは喜んで連れて帰ったと。
 「婆さ、婆さ、いま帰ったぞ」
 「あゃぁ、爺さ、お前、どこへ行ってた」
 「いや、おらが門松を竜宮浄土へあげたれば、乙姫さまに呼ばれて、土産にこんなはなたれ小僧さまを下さった。この子に欲しい物を言えば、何でも出るすけ」


 婆さが喜んで、
 「米出してくれや」
と頼んだら、米俵が出て来たそうな。それから、魚も味噌(みそ)も出してもろうて、楽々年とりの仕度が出来たと。婆さが、こんな大きなのは出るかな、と思いながら、
 「この家はぼろやだから、今度は、いい家を出してもらおうか」
と言うたら、本当(ほんと)にいい家が出て来たと。
 爺さは、だんだん身上(しんしょう)がよくなって、人から、「旦那(だんな)さま、旦那さま」と言われて、つきあいが広がったと。
 ところが、爺さがいい身なりをして旦那づきあいをするようになっても、うしろから、はなたれ小僧さまがぴったりとついてくる。
 竜宮から来たまんまで、はなをかめと言ってもかまんし、よだれをふけと言っても、いっこう平気な顔だ。


 爺さは、ていさいが悪くて、悪くて、あるときとうとう怒ってしまって、
 「お前のようなもんは、へぇ、どこかへ行ってしまえ」
と言ったと。
 そしたら、はなたれ小僧さまは、
 「あい、あい」
と言うて、ごんごんとどこかへ行ってしまった。
 姿が見えなくなったそのとたんに、あんなにいい家は無くなってしまって、今まであったいい物もみいーんな無くなって、元の貧乏なあばら家になってしもうたそうな。

  いきがポーンとさけた。

「はなたれ小僧さま」のみんなの声

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楽しい

とても面白いお話でした( 50代 / 女性 )

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