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つるのよめさま
『鶴の嫁さま』

― 福島県 ―
語り 井上 瑤
再話 大島 廣志

 むかし、ある若者が山道を歩いていると、一羽の鶴(つる)が、わなに足をはさまれて、もがいていた。若者は、
 「命あるものをいじめちゃならん」
と、わなをはずしてあげた。鶴は、ハタハタと舞(ま)いあがり、若者の頭の上をなんどもまわって、それから、どこかへ飛び去っていった。

 しばらくたったある雪の夜、若者の家の戸をトントンとたたく者がいる。
 「こんな雪の夜に、だれだんべ」
と、若者が戸をあけてみたら、そこには色の白い、美しい娘(むすめ)が立っていた。

 
 「旅の者ですが、雪で道に迷(まよ)いました。どうか一晩(ばん)とめてくだされ」
 「それは、なんぎなことだ。こんなボロ家でよかったらとまってくろ」
 若者はこころよく娘を家の中に入れた。 
 次の日になると、娘は朝早くからせっせと働きだした。そして、次の晩も次の次の晩もとまって、とうとう娘は、若者の嫁(よめ)さまになった。

 あるとき、この嫁さまは、
 「わたしが機(はた)を織(お)るから、織った布を町へ行って売って下され。そうすれば暮(く)らしはずっと楽になります。けれど、出来上がるまでの三日間は、機を織っている姿を見てはなりません」
というて、機織り部屋へ入り、トンカラリ、トンカラリと機を織りはじめた。そうして、三日目に出来上がった布を、若者が町へ持って行くと、たいそうな値段(ねだん)で売れた。

 
 商人から、次の布のお金までもらった若者は、ほくほくして家に帰ると、
 「もう一度布を織ってくろ」
 「あのような布は、何度も織れません」
 「金をもらってきたのだから、なんでかんで織ってくれねばこまる」
と、若者は嫁さまをせめたてた。しかたなく、嫁さまは、
 「そんなに言うなら、もう一度織りましょう。けれど、今度は七日かかります。その間、機を織っている姿(すがた)を決して見てはなりません」
というと、また、部屋の中へ入って、トンカラリ、トンカラリを機を織りはじめた。

 若者は、見てはならんといわれたものの、あんな高い布をどうやって織るのか見たくてたまらん。とうとう七日目になった。もう出来上がるころだから、少しくらいよかろうと思い、若者は、戸のすきまからそっとのぞいてみた。


 するとやせ細った鶴が、自分の羽を一本ぬいては織り、一本ぬいては織りして、機を織っていた。若者がたまげていると、戸があいて、中から嫁さまが布を手に持って、かなしげな顔をして出てきた。

 「見てはいけないといったのに、とうとう私の姿を見てしまいましたね。実は、私は山道でわなにかかっているところを助けられた鶴です。あの時の恩(おん)返しのためにやってきたのですが、本当の姿を見られたからには、わたしはもうここにはいられません。どうぞたっしゃで暮らしてくだされ」
とか細い声でいうた。
 
嫁さまは、鶴の姿になって、フワッと舞い上がると、空の遠くへゆっくりゆっくり飛んでいってしまったんだと。
 
 ざっとむかしさけえた。

「鶴の嫁さま」のみんなの声

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