民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 伝説にまつわる昔話
  3. 金樽鰮

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

きんたるいわし
『金樽鰮』

― 京都府宮津市 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 丹後(たんご)の国(くに)は宮津地方(みやづちほう)、今の京都府の日本海に面した宮津湾(みやづわん)に「天(あま)の橋立(はしだて)」というのがありますわなあ。
 神様が日本という国を創(つく)ったとき、天と地とを結ぶはしご段をかけた。が、あるときそのはしご段が崩(くず)れ落ちた。「天の橋立」というのは、そのとき海辺(うみべ)りに落ちたはしご段のかけらだと伝えられ、だから、股(また)の間(あいだ)からさかさまにのぞくと天へかかっているように見えるといって、日本三景(にほんさんけい)のひとつにも数えられている、あれです。

 その天の橋立の外側(そとがわ)の海を与謝(よさ)の海(うみ)、内側の海を阿蘇(あそ)の海と呼んで区別しておりますが、昔から阿蘇の海で獲(と)れるイワシに限って、金樽鰮(きんたるいわし)というております。
 これには面白いいわれがありまして、その話しをしましょうかのう。


 むかし、丹後の国に藤原保昌(ふじわらやすまさ)という殿さまがおりましたそうですわい。
 この殿さまは京都に長い間住んでおられたお方で、風流好みの殿さまだったという。
 ある夜のこと、殿さまは阿蘇の海に舟を浮べて月見酒(つきみざけ)をしていたと。 
 「きれいな月じゃあ、京で見る月もなかなかじゃが、この海から眺(なが)める月はまた格別(かくべつ)じゃ」
 いうて、上機嫌(じょうきげん)だと。呑(の)むほどに、酔(よ)うほどに調子があがって、お供の者たちと謡(うた)いながら、「いよ― ポン。ポン ポポポン ポン」と、酒の入った金造(きんづく)りの樽(たる)を、鼓(つづみ)の代わりにして叩いておった。
 すると、金樽(きんたる)を叩く殿さまの舟の周囲(まわり)にイワシの大群が押し寄せて来たそうな。 

 
 殿さまが金樽を叩くとイワシまでが飛(と)び跳(は)ねて踊る。大喜びした殿さまは、一層(いっそう)ポンポコポンポコ金樽を叩いたと。舟辺りから身を乗り出すようにしてイワシをけしかけていたら、飛び跳ねたイワシが殿さまの顔に当った。そのはずみで、金樽を海に落としてしもうた。すると、今までいたイワシの大群は急に姿を消したと。

 次の日、漁師たちは殿さまの大切な金の樽を拾い上げようと網を引いた。

 金樽は見つからんかったが、かわりに何千何万匹ものイワシがかかった。
 漁師たちは大漁に大喜び。浜じゅう水揚げで賑(にぎ)わったと。


 イワシは殿さまにも届けられた。殿さまは
 「おお、なんとうまいイワシじゃ。浜が賑わうのなら金樽はそのまま海に抱かせておくがよい」
 こういわれたと。
 それからじゃぁいいますなぁ、阿蘇の海で獲れるイワシを他(ほか)と区別して金樽鰮と呼ぶようになったのは。
 今でも、阿蘇の海のどこかに、殿さまの金造りの樽が沈んであるはずじゃ、いうております。

 むかしのはなしの種くさり。

「金樽鰮」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

一番に感想を投稿してみませんか?

民話の部屋ではみなさんのご感想をお待ちしております。

「感想を投稿する!」ボタンをクリックして

さっそく投稿してみましょう!

こんなおはなしも聴いてみませんか?

舌切り雀(したきりすずめ)

昔があったと。あるところに爺と婆があったと。ある日、爺は山へ柴刈りに行った。爺が弁当を木の枝につるしておいたら、雀が来て弁当を喰うて、そこへ寝てしも…

この昔話を聴く

「しおのこ、しおのこ」の由来(しおのこ、しおのこのゆらい)

むかし、農家の人は、一粒の米も無駄にせられんいうて、米俵の中の米が残り少のうなると、俵をさかさにして、俵のまわりや底のところを棒で叩いて、中の米を一粒残さず出したそうな。

この昔話を聴く

売桝、買桝(うります、かいます)

むかし、あるところに、米、味噌、醤油を売る店があったと。いく代(だい)も続いて信用もあったのだが、どうしたわけか、だんだん身上(しんしょう)が傾(か…

この昔話を聴く

現在883話掲載中!