― 福岡県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、むかし、あるところに太郎狐(たろうぎつね)と治郎狐(じろうぎつね)の兄弟狐(きょうだいぎつね)があったと。
ある日のこと、二匹が連(つ)れだって山道を歩いていたら、道端(みちばた)に握り飯が二個、竹の皮に包(つつ)まれて落ちていた。いい匂(にお)いだと。
包みをほどいたら、握り飯は、一個が大きくて、もう一個は小さかった。
太郎狐は治郎狐に、
「俺はからだが大っきいから、握り飯も大きい方をもらう。お前はからだが小(こん)まいから、握り飯も小まいのにせい」
と言うた。
そしたら、治郎狐が、
「そうじゃないぞ。兄ちゃんはもう大きくなったんだから、小まい握り飯でいいんだ。おれは、まだまだ大きくならにゃならんから大きい握り飯を食う」
と言うた。
二匹とも、大きい握り飯をおさえて、言い争いだと。
「俺のだ」「いや、俺のだ」
と、言いあっていたら、そこへ猿が通りかかった。
「何を喧嘩(けんか)しておるか」
「猿どん、いいところへ来てくれた。何ね、この握り飯、どれをどっちがとるかでね。こいつ、小まいくせに大きいのを欲しがって、聞きわけないったらありゃしない。ちょっと悟(さと)してやっておくれな」
「ちがうもん、兄ちゃんの方こそ大人気(おとなげ)ないんだい」
「まぁまぁ、まて、まて、事情(じじょう)はわかった。どうしたらいいか考えてやろう。うーん。それにしてもだ、実にたあいのないことで争っているなお前たちは。
おっ、そうじゃ。こうしよう。この二つの握り飯が、一つは大き過ぎ、ひとつは小さ過ぎるのがいかんわけだから、そうだろ」
「まぁ、そう……かな」「う……うん」
「と、言うことは、二つが同じぐらいの大きさにすればいいわけだ。そうだな」
「まぁ、そう……かな」「う……うん」
「そんなら、こっちをこうして」
猿は、大きい方の握り飯を一口食べ、もう一口食べた。
「ありゃ、こんどは、こっちが少っと(ちいっと)大きいかな」
小さい方の握り飯を一口食べ、
「あ、やっぱり、こっちの方が大きい」
と言うて、また戻って一口食べた。
太郎狐と治郎狐が、あわてて、
「あ、いや、もし」「あ、あ、あー」
と言うているうちに、猿は両手に持った握り飯を、かわるがわるに食べて、食べて、食べて、とうとうみんな食べてしまった。
「ありゃ、すまん。でもまあなんだ、これで喧嘩の種ものうなった。」
「まぁ、そう……かな」「う……うん」
太郎狐と治郎狐は、下向いて帰ったと。
それぎんのとん。
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昔、豊後(ぶんご)の国、今の大分県臼杵市(おおいたけんうすきし)野津町(のつまち)大字野津市(おおあざのついち)というところに、吉四六(きっちょむ)さんという頓智(とんち)にたけた面白い男がおった。
「猿の仲裁」のみんなの声
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