― 福岡県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
お前(ま)んさぁ、知っとられますかいのう。
月夜の晩にゃぁ、猪(いのしし)が山ん中で相撲(すもう)ば取っちょるっちゅうのを。
ん、知らんか、そうか、なら、もうじき十五夜(じゅうごや)やけん、そん話ばしまっしょうかい。
むかしむかしのこと。
ある山ん中に、兎と猿と、狐に狸、熊やら猪やら、いっぱい住んどったげな。
ある時、みんな集まって相談ばしたげな。
「あすん晩は十五夜やけん、めいめいが面白かことばして、お月さんに見せることにしよう」
と決まったげな。
十五夜になると、兎が、
「月見の餅(もち)つきばして見せまっしょう」
と言うて、ペッタン、ペッタン、餅ばついてお月さんに見せたげな。
次には狸が、
「おれが腹つづみは、すごかぞ」
と言うて、ポンポコ、ポンポコ、腹ば突き出して打ちよったげな。
そん次には猿が、
「わが得意は、木登りたい」
と言うて、スルスル木に登って、隣(となり)の木の枝から枝へ、ヒョインコ、ヒョインコ飛んで渡りよったげな。
熊も狐も、みんな何かしらして見せよったが、猪だけが何も出来んじゃった。
「あたきゃあ、なんもでけん」
と言うもんじゃけん、けものたちは、みんな、猪ば馬鹿にするごつなった。猪はしょげよったげな。しおら、しおら我が家に帰ると、弟(おとうと)猪が、
「どげした」
ちうて、訳(わけ)ば聞いたげな。兄(あに)猪は訳をば話ござった。そしたら、弟猪は一時(いっとき)考えとったが、よかことば気のついて、
「猪は、ほかになんも出きんけん、せめて相撲なっと見せまっしょう」
と言うた。
兄猪と弟猪は山ん上さ登って、一生けん命相撲ばとったげな。
弟猪が突っかけると、兄猪がガチンと頭で受けて、横へプイと振りよった。そしたら弟猪が土俵(どひょう)ぎわまで突っ張っていって、土俵を割るまいと、バタバタしやったげな。
そんな不器用な様(さま)がおかしい言うて、お月さんが笑わっしゃったけん、他の者(もん)もたまがって、みんな猪の相撲ば見に寄ってきたげな。
そこで、お月さんが言わっしゃるのに、
「わがことば自慢して、他人(ひと)んこつば笑(わら)うことはならん。猪が一番よか」
と言わっしゃったげな。
これで月夜に山ん中で猪が相撲ばとっちょる訳が、わかっつろう。
それぎんのとん。
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むかし、あったけど。 あるところに、貧(まず)しいけれど、信心深い婆(ばあ)さまが住んでおった。 婆さまは、死んだらば、地獄(じごく)には行きたくねぇ、なんとか極楽に行きたいと思うて、毎日、毎日、お寺参りをしたんだと。
「猪の相撲」のみんなの声
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