民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 動物の争いにまつわる昔話
  3. 蟻と鳩

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

ありとはと
『蟻と鳩』

― 千葉県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところに蟻と鳩がおった。
 蟻は地べたを歩きまわり、鳩は木の枝にとまって羽を休ませていたと。
 そしたら、風がピューと吹いて、地べたの蟻が吹き飛んだ。池の中へ落ちたと。
 蟻が溺(おぼ)れてもがいていたら、鳩がこのありさまを見ていて、
 「待ってろ、待ってろ、今、たすけてやる」
と言って、木の葉を一枚くわえて飛び立ち、蟻のところへ落としてやった。
 苦しんでいた蟻は、必死になってその葉へはい上がったと。
 木の葉は風に吹き寄せられて、岸についた。
 地べたに戻った蟻は、ほっとしたと。
 


 「鳩どん、鳩どん、おかげで命がたすかった。いつか、きっと恩返しをするから」
 「なぁに気にしなくていいよ。それより、せっかく命拾いをしたんだ。今度は気を付けなよ」
 鳩は羽ばたいてどこかに行き、蟻も家に帰ったと。
 しばらくたったある日のこと。蟻が鳩のことを思いながら歩いていたら、一人の鉄砲撃ちが何かを狙っているところに出会った。
 鉄砲の狙っている先を見た蟻はびっくりした。何と、この間大事な命を助けてくれた、あの鳩どんが狙われていた。

 「こりゃ一大事だ。この鉄砲撃ちめが、俺の命の恩人を、なにすっだ」
 蟻は鉄砲撃ちの足にはい上ったと。
 鉄砲撃ちは気がつかない。蟻は、
 「この、この。この鉄砲撃ちめ、足元見ろ。これでどうだ」
と言って、鉄砲撃ちの足に、思いっきり咬(か)みついた。


 鳩を狙って、いままさに引きがねを引こうとしていた鉄砲撃ちは、チクリという、蟻の仕業(しわざ)に気をとられ、はずみで狙いがそれたと。
 ズドンと飛び出た弾は鳩には当らないで、枝の葉を散らしただけだったと。
 鳩は九死に一生を得(う)ることが出来、蟻も恩返しが出来たと喜んだそうな。

 めでたし、めでたし。 

「蟻と鳩」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

感動

お互いを助け合うことで、たとえ違う生き物であっても、すばらしい絆が生まれるのですね。このお話で、助け合うことの大切さを改めて知りました。 とても良いお話ですね。

こんなおはなしも聴いてみませんか?

和尚と小僧(おしょうとこぞう)

 昔、あるお寺に和尚さんと小僧さんがおったと。  和尚さんは毎晩餅(もち)を囲炉裏(いろり)で焼いて食べるけんど、小僧さんにゃ、ちっともやらんので、小僧さんは、どうにかして餅を食べる工夫はないもんかと思案しちょったそうな。

この昔話を聴く

猿の一文銭(さるのいちもんせん)

むかし、ある山の中に爺と婆が住んでおったと。爺と婆は、山の畑で豆だの大根だの野菜を作り、それを町へ売りに行って暮らしておったと。あるとき、爺が、大根…

この昔話を聴く

話そうか話すまいか(はなそうかはなすまいか)

むかし、むかしあったげな。  ある旅の商人(あきんど)が大けな荷物を肩(かた)にかついで、丸太の一本橋の上を渡(わた)ろうと思いよったら、向こうからもひとりのお侍(さむらい)が渡りょったげな。

この昔話を聴く

現在884話掲載中!