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くりやまのきつね
『栗山の狐』

― 青森県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 昔、津軽(つがる)の泉山村(いずみやまむら)に喜十郎(きじゅうろう)ちゅう百姓(しょう)いであったど。
 秋になって、とり入れが終わったはで、十三町の地主のどごさ、年貢米(ねんぐまい)ば納(おさ)めに行ったど。
 秋おそぐだはで、霜(しも)おりで、寒くで、手コ冷てはで、喜十郎ァ、ふところさ手ば入れで行ったど。
 栗山(くりやま)の部落、近ぐなったど。
 狐(きつね)ァ、山の上がら喜十郎の来るのば、見でいだど。
 年貢米納めれば、そのあとで地主ァ、ご馳走(ちそう)つくって、昼間から酒コ呑(の)ませでくれるごと、狐ァ覚えていだど。


 「おらも、一杯(いっぱい)呑みてじゃ。喜十郎ァ手コ冷たがっているはで、おら、若者に化けで、馬子(まご)のかわりになって、馬ばひいでやれば、きっとこ馳走にありつけるがも、わがらね」
 狐ァ、こう考えで、早速(さっそく)、栗山の松助に化けだど。

 「おやおや、泉山村の喜十郎でねが。おらも十三町さ行くだじゃ。一緒(いっしょ)に行くべ。おら馬コひいでやるべ」
 狐ァ、そういって、馬子になったど。
 
 地主の家さ着いで、年貢米納めだど。そしたけァ、やっぱりご馳走出て、酒コ出たど。
 旦那(だんな)ァ、自分から酒コ、ついで呉(け)だど。
 「なんだば。松助でねェな。松助だば酒コ好きだはで、こったら小せえもんでねぐ、大きい茶碗(わん)の方、よかべ」
 旦那ァ、そういって、大っきい黒塗(ぬり)の輪島の盃(さかずき)ば持って来て、それさ、なみなみど一杯ついで呉(け)だど。

 
 ところが、黒塗だはで鏡のようによく映(うつ)るど。映った顔コ見だけァ、松助でねぐ、狐の顔コだど。狐ァ、困(こま)ってしまたど。せっかくご馳走にありつけだのに、旦那に椀の中の顔コ見られれば、化けでるのがぼれてしまっで、どったら目にあうか、わがらね。
 
栗山の狐挿絵:福本隆男

 
 それで、
 「おら、馬コさ飼馬(くさ)やって来るじゃ」
といって、そのまま逃(に)げでしまったど。
 みんな、松助のやつ何遠慮(えんりょ)してるだば、と思ったども、そのままにしていたど。
 喜十郎ァ、いい気分に酔(よ)って戻(もど)って来たど。
 狐ァ、山の上で待っていで、喜十郎は見たけァ、
 「グァギャー、グワギャー」
て、ないで馬鹿(ばか)くさがったど。
 
 とっちぱれ。

「栗山の狐」のみんなの声

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字で読むと難しい方言なのに、聞くとすーっとお話の内容が入ってきます。アハハっと笑えるお話はいいですね( 50代 / 女性 )

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