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いしゃさんにんのうでじまん
『医者三人の腕自慢』

― 青森県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 昔あったと。あるところに医者になりたい男が三人おったと。
 「俺は、おっ母さんが眼病(めやみ)なのに、毎晩針仕事をしてつらそうだから、眼医者になって治してやりてぇ」
 「俺は、おっ母さんがセンキ病みで、時々胃の腑(ふ)を押さえて唸(うな)っているから腑病みを治す医者になる」
 「俺は、おっ母さんは何ともないけど、怪我(けが)を治す医者になる」
 って語らって、三人して上方(かみがた)へ修行に行ったと。


 十年経って腕をみがいての帰り道、宿に泊って酒を呑(の)みながら、それぞれの修行の成果を語らったと。
 眼医者になった男が、
 「俺は、自分の目ん玉をくりぬいて元通りに入れられるようになった。まんず、日本一の名医とは俺のことだな」
 って言ったら、身体の腑を治す医者になった男が、
 「なんの、日本一は俺だべ。俺は自分の腹をさいて、肝(きも)を取り出し、ちょっと日向(ひなた)に温もりさせて、また元通りに入れてみせられる」
 って言い返した。
 そしたら、怪我を治す医者になった男が、
 「なんの、なんの。俺は自分の腕を切り落として、傷あとも見えねぇぐらいに上手に継(つな)いでみせる。俺こそ日本一だべ」
 って、自慢したと。

 
 日本一が三人いたらおかしいから、試してみることになったと。
 宿中の泊り客が見物に集まったと。
 「したら、まず俺が始める」
 って、眼医者が自分の眼をくりぬいた。すると、腑医者が腹を切って自分の肝を引っ張り出すし、怪我医者は自分の腕をすっぱり切り落とす。
 見物衆は「ウッヒャー」って、大騒ぎだと。
 治す腕前を見せるのは翌(あ)くる朝の事にして、女中を呼んで、目玉と肝と腕とを、お盆に乗せて預けたと。
 さてその晩のこと、宿に盗人(ぬすっと)が忍び込んだと。ところが、忍び込んだ先が運悪く強い侍(さむらい)が休んでいる部屋だったから、お客の財布(さいふ)を盗るつもりでのばした腕を、刀ですっぱり切り落とされてしまったと。

 
 一方、台所では猫が入り込んで、お盆に乗せておいた医者の目玉と肝と腕とを引っ張って行って食ってしまったと。
 次の朝、女中が目を覚まして台所に行って見たら、大切な預り物が一つも見当たらない。
 「さて困った。お医者さまたちに何てお詫(わ)びしたらええか」
 って、台所に座って考えていたら、うまい具合に魚の頭が見つかった。そいつの目玉をくりぬいて、さあて、肝はどうしたもんかと見回していたら、鳥のキジが目についた。そいつの腹を開いて、肝を取り出した。
 さあて、腕はどうしたもんかと、あちらこちらを探して歩いていたら、侍の部屋の廊下(ろうか)に腕が落ちてあった。
 「あれ、こんなとこにあった」
と喜んで、三つともお盆に乗せて持って行ったと。
 三人の医者はそんなこととはつゆ知らず、自慢(じまん)の腕をふるって、めいめい、目ん玉を入れたり、肝を入れたり、腕を継いだりして、大いばりで出て行ったと。

 
 三人揃(そろ)って行くが行くが行くと、行く手に海が近づいてきた。そしたら眼医者は、どうしたわけか、海がなつかしくてなつかしくて、たまらない心地(ここち)がするんだと。いよいよ岸辺(きしべ)まで来ると、
 「そんなら、俺、ここで失礼する」
 って、海の中へザンブと飛び込んでしまったと。
 
医者三人の腕自慢挿絵:福本隆男

 
 残った二人が村の方へ行くが行くが行くと、山道にさしかかった。すると今度は、腑医者が山の方へ引き寄せられる心地して仕方がないんだと。
 「なして、この山が恋しくてならんのじゃろう。俺、この山へ行く」
 って、ずんずん山の奥へ分け行ってしまったと。
 残った怪我医者が一人で歩いていると、向こうから旅の者がやって来た。すると、腕がむずむずしてならない。すれちがったときには腕が勝手に動いて、財布をスリ盗っていたと。
 怪我医者は、ついつい人の物に手が出て、とうとう、一代、泥棒(どろぼう)で終ったと。
 とっちばれ。

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