― 大阪府 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
昔、大阪の町に、ひょんな見世物(みせもの)を見せて歩く親方がいよったと。
ろくろ首の女とか、腰(こし)から下が魚の人形など、いいかげんにこしらえて本物らしくごまかし、お客を呼びよるのや。
ところが、いつも同じものばかりやりよるんで、だんだんと客が来んようになった。
親方は商売にならんので、ある時、小僧に言いよった。
「小僧や、こうお客が来んようになっては、飯の食いあげや。ひとつおまえ、三つ目小僧にならんか。するとまたきっとお客がぎょうさん来よるで」
「けんど、どないして、わて三つ目になりまんねや」
「そこがわしの腕や。まかしとき」
そう言うと、どこやら出掛けて行き、夕方、目玉を買(こ)うてきて言いよった。
「これをお前の額(ひたい)へくっつけるんや。そしたら、そんで三つ目小僧の出来上がりや」
小僧はジロジロ目玉をながめていたが、気味悪うてなりゃせん。
「いややなあ、三つ目小僧なんて、やらんでいい方法はないやろか」
額をなでながら考えこんでしまいよった。
そのうち、いい思案が浮かんだ。その目玉は、親方が仏具店から買うて来たらしいのを知ったので、小僧も仏具店へ行って、訳を話して頼みよったんや。
「そんな訳や。わいを助けるじゃなくて、見物のお客さんを助けると思うて、おっさんたちもちょっとだけ三つ目小僧になっとくなはらんか」
「見世物の親方をだますっちゅうのは面白(おもろ)いな。よっしゃ、味方になってやろ」
仏具店の主人がひきうけ、弟子(でし)たちと供に三つ目小僧のかっこうになって裏山の洞穴(ほらあな)に入りよった。
「こんでよしよし」
小僧は、さっそく小屋へ駆(か)けて帰って、親方に言うた。
「親方はん、わしが三つ目小僧になるのはちっともかましまへんが、見物人が、こんな三つ目小僧、どこから取って来たんや、と聞きよったらどないしまんね。いつもいつも山の奥からやとも言えまへんやろ。それより、裏山にある富士の抜け穴から取れたという事にしたらどうだす。そしてその取れるところを、町のもんたちに見せときまんねや。そしたらそれこそ大評判になって、大入り満員だっせ」
親方はひざをたたいて喜んだ。
「そら、ええ考えや。善は急げや」
親方は額に目玉をはり付けた小僧を洞穴の中に入れておいて、その晩、町のもん十人ばかし集めて、洞穴の前へ連れて行って言いよった。
「みなはん、わし、この洞穴にえらい化け物見つけましてん。三つ目小僧が一人いよりまんね。それ取って見世物にしようと思うてまんねや」
びっくらしとる人々を尻目(しりめ)に、親方は一人で穴の中へ入っていきよった。
ところが、間もなく親方は真っ青になって、転げ出て来て、
「かんべんしてくれ、かんべんしてくれ」
と、口から泡(あわ)ふきふき言いよったんや。
なんと、中には六人もの三つ目小僧がおって、親方を追っかけて来よったんや。しかも、中の一人の閻魔大王(えんまだいおう)の姿をした三つ目男が、親方に組みついてこう言いよったのや。
「こら悪人め、三つ目人間を取って見世物にしようとは何ちゅう了見(りょうけん)や。そんなやつは、わしらがひっ捕らえて三つ目の国へ連れて行き『二つ目人間や』言うて、見世物にしたる。さあ、三つ目の国へ来い」
親方はもう生きとる気もせん。ふるえあがって泣いて謝(あやま)りよった。
「どうかお情けをー。もう三つ目を見世物に出しまへんさかいにー。」
おかげで小僧は助かったと。
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とんとむかし、ある刀鍛冶のところへ、兼光(かねみつ)という若い男が弟子(でし)いりしたそうな。兼光はまじめに働(はたら)いて、師匠からも気にいられ、何年かすると師匠の向こう鎚(づち)を打つまでに上達したと。
「三つ目小僧」のみんなの声
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