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ふしぎなはな
『不思議な花』

― 青森県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、あったけど。
 ある山のふもとの村に、一人の若者が住んでおった。
 若者は、山の木の実や、いちごや、きのこをとって暮らしを立てていたんだと。
 けれど、働いても働いても、いっこう暮らしは楽にならんかったって。
 あるとき、山でいちごをとっていたら、どこからか白いヒゲをはやした爺(じ)さまがあらわれて、
 「わしに、いちごを食わせてくろ」
と言うた。
 若者は、爺さまがあんまりせつなそうなんで、
 「腹(はら)ぁ空(す)いているだか、ほうれ、これ食え」
 って、いちごを、みーんな爺さまにあげてしもうた。

 
 次の日、また山へ行って、いちごをいっぱいとって、さて帰ろうとしたら、昨日の爺さまがあらわれて、
 「わしに、いちごを食わせてくろ」
と言うんだと。若者は、
 「今日も腹ぁ空いているだか、ほうれ、これ食え」
 って、今度も、いちごをみーんなあげてしもうた。ほうしたら、爺さまは、
 「お前は心の優しい人間じゃのう。この種(たね)をやるから、清水(しみず)の湧き出るところへ植えろ。きっといいことがあるぞ。」
 と言って、若者に種を手渡すと、スウーッと消えてしもうたって。
 若者は村に帰ると、爺さまの言う通りに清水の湧き出ている池のほとりに種を植えたんだと。
 そうしたら、次の日の朝、そこから、この世で見たこともない、それは美しい花が咲いた。

 
 はじめに水を汲(く)みに来た村人が、
 「ほう、こりゃ、また、なんときれいな花だべぇ」
と、つくづく見とれていたんだが、そのうち、
 「おっと、こうしているうちに他の者が来るといけねえ。今の内に、俺一人の物にしちまおう」
と、ついっと手を伸ばしたら、何とその手がピターッと花にくっついてしもうた。
 「あらぁ、情けないことになってしもうたぁ。手が…手が張り付いてしもうたぁ」
 足を踏(ふ)んばって引きちぎろうとしたけど、花はちぎれも、抜けもしないんだと。
 そこへ、他の村人がやって来て、
 「どれ、わしも手伝ってやろう」
と、両手で腰を引っ張ってやったら、その手がくっついて、とれなくなった。
 その次の人もくっついて、そのまた次の人もくっついて、みーんなつながってしもうたんだと。

 
不思議な花挿絵:福本隆男
 

 
 そこへ若者がやって来て、目をまんまるにしておどろいた。
 「俺の花をとろうとするから、罰(ばち)があたるんだ。それにしても、こりゃあどうしたもんかなぁ、とりあえず、医者様(いしゃさま)のところへ行くべか」
と言って、花を茎(くき)からポキッと折ると、みんなを引っぱって、ぞろぞろ、ぞろぞろ歩き出した。

 
 そうして、町の大きな呉服屋(ごふくや)の前を通りかかったら、美しい娘が、みんなのつながっている姿を見て、ケラケラ、ケラケラ笑い出した。
 呉服屋の主人は、生まれて一度も笑ったことのなかった娘が笑ったものだから、喜んで喜んで、若者を家に招(しょう)じ入れると、
 「どうか、この家の聟(むこ)になってくだされ」
と頼んだんだと。
 若者は町一番の呉服屋の聟になって、しあわせに暮らしたんだと。

 どっとはらい。

「不思議な花」のみんなの声

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