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『きつつき』

― 秋田県 ―
語り 井上 瑤
再話 今村 泰子
整理 六渡 邦昭

 昔、昔。
 ある家さ一人の婆(ばあ)さん住んでいたど。
 ある日、婆さん餅(もち)焼(や)いていたけ、トントン戸を叩(たた)ぐ音して、旅人、
 「すまねども、ちょっと休ませて呉(け)ねしか」
と、言ったども。

 
きつつき挿絵:福本隆男
 
 婆さん、知らね振(ふ)りして居たども、めんどうくせ声で、
 「今、忙(いそが)しくて手離(はな)せねがら、自分で開けて入って呉(け)」
と、叫んだど。


 婆さん、入って来た人の顔も見ねで、一生懸命(いっしょうけんめい)餅焼きしてたけ、旅人、腹(はら)空(す)いていたので、
 「なんとうまそうだ匂(かおり)する事(ごと)。おれさも一つ呉(け)てたんえ」
と言ったど。婆さん、「やんだ」ともいわれねがら、一番小っちゃいのやろうど思って、また、餅焼いだども、段々(だんだん)焼けてくると呉(け)るのがいやになって、一つも呉(け)ねがったど。

 旅人、急にこわい顔になって、
 「お前(め)、なんとけちん坊(ぼう)だごと。人さ親切も出来ね者は、人間にしておかれね。鳥になって、自分の食い物は自分で探(さが)せ」

 
きつつき挿絵:福本隆男


って、言ったば、その言葉終わらねうちに、婆さん、きつつきになってしまったど。
 この旅人は、天(てん)の使いであったなだど。
 とっぴんぱらりのぷう。
 

「きつつき」のみんなの声

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