― 秋田県 ―
語り 井上 瑤
話者 佐々木 チヨノ
再話 今村 泰子
整理 六渡 邦昭
昔、あったけずぉな。
あるどごに、隣(となり)村がら聟(むこ)貰(もら)た家(え)あったけど。
その聟がある時(じき)の正月の元日の朝間、神様さお燈明(とうみょう)つけで拝(おが)んでいだけど。
あんまし一生懸命(けんめい)になて拝むので、そごの家の人達(ふどだち)ぁあやしぐ思て、
「なんしにそんなに拝むのだてシャ」
ど、聞いたば、
「昨晩(ゆべ)ナ、とでも面白え夢見たなで、こたに一心に拝んでえだなだ」
で言うたど。
挿絵:近藤敏之
したば皆(みな)、
「なんた夢見だが聞がせろ」
て言うたども、聟ぁ、ぎりっと(さっぱり)聞がせ無(ね)ゃけど。そしたば家の人達ぁ、
「ンだば、ンが(お前)どご島流しにする」
て、おどがしたけど。
ンだども、聟ぁ、なったり(絶対)聞かせ無ゃのなで、とうど島流しされだけど。
聟ぁ、木箱さ入(ひゃ)って、流れ流れで行(え)たば、ある島さ着いだけど。
その島の岸の方(ほ)にゃ一杯(えっぴぁ)鬼いで、その中の頭鬼(かしらおに)ぁ、
「その流れで来たな、なんだが開けで見ろ」
ど言うて、子分達ぁ開げて見だば、人だけど。
そしだば、頭鬼ぁ早速に、
「人だ人だ、食てしまえ」
て言うたけど。そしだば、一匹の年寄った鬼ぁ、
「まんず、此処(ここ)さ来た訳(わけ)聞いでがら食た方(ほ)が良(え)ぇ」
て言いながら、聟がら訳聞いだげど。
そしたば、聟ぁ、
「見だ夢、聞かせ無(ね)ゃで、島流しにあった」
ど伝えだけど。
したば、鬼共ぁ、
「ンだら、おら達にも、その夢聞がせろ。そせば、あらたち宝物三つ持て居(え)だがら、どれでも好きな物呉(け)るがら」
て言いながら、一本の、表が黒くて裏(うら)が赤いヘラッコど、千里走る車ど、二千里走る車ど、持て来たけど。
したば聟ぁ、すんぐにヘラッコ一本持て、二千里走る車さ乗て、トンがトンが逃(に)げで行てしまたけど。
挿絵:近藤敏之
そしたば、鬼ぁごしゃいで(おこって)、千里走る車で追(ぼ)かけで来たけど。
ンだども、聟ぁ、二千里走る車さ乗ってるべぇ、鬼が千里走る車さ乗て追(ぼ)かけだどころで、まじにもなら無(ね)ゃけど。ンだごとなべぇ(そうだろうがな)。
挿絵:近藤敏之
聟ぁ、ある町まで乗て来たば、長者の家(え)の娘ぁ尻(しり)たぐって小便(しょうべん)たれでいだけど。
聟ぁ、悪さして、娘の尻コ、ヘラッコの赤(あき)ゃ方(ほ)でペタペタ叩(たた)いでやったけど。そしたば、娘の尻ぁだんだん鳴り出したけど。
〽スポガ スポガ シンデンジ
シャガホガ ホウシャクジ
六原 清水(きよみず) 六角堂の太鼓(たいこ)にならばなれ
ズフ ズフ
ど、鳴り続けだけど。
そこの町は大さわぎになたけど。
長者は、娘の尻の鳴りコ止めで呉(け)た人を娘の聟にするて、立札建てたけど。
聟ぁ、よし、て、長者の家さ行ったら、長者みずから出できで、
「まんず風呂に入(ひゃ)れ。袴(はかま)、羽織(はおり)で見でたんせ」
ど言たけど。
娘の寝(ね)ているどこさ行(え)たば、医者達ぁ一杯(えっぴや)居で、聟見で、
「こたな野郎(やろ)コぁ、治せるが」
どて、大笑いしたけど。
ンだども聟ぁ、ヘラッコの黒い方で尻コペタペタなでたば、尻鳴りぁ少しずつ静かになて、そのうち、スカッと止まてしまたけど。
したば、さっき笑た医者達ぁ、ワラワラ逃げで行(え)てしまたけど。
長者の家では大喜びして、
「なんどが、おら家の聟になてたもれ」
と所望(しょもう)したけど。聟ぁ、こんどぁ長者の家の聟さなたけど。そして、長者の娘と二人で上方詣(かみがたもうで)に出掛(か)げだど。
実ぁ、先に聟の見だ夢ぁ、長者の娘と二人して上方詣さ行た夢であたけど。
とっぽんぱらりのぷう。
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むかし、あるところに婆さまがあったと。 婆さま、田んぼへ行って草取りしたと。 昼どきになったので弁当を食うていたら、一匹の狐(きつね)が田んぼの畔(あぜ)の上をゆっくりゆっくり歩いて近づいてきた。
「聟の夢」のみんなの声
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