― 秋田県 ―
語り 平辻 朝子
再話 今村 泰子
整理・加筆 六渡 邦昭
昔、昔。
雨コ降(ふ)ってら日、一人の婆(ばば)、山菜(さんさい)のミズ背負(しょ)って町さ売(う)りに歩いてたど。
「居(え)だか。ミズ えかったべしかあ。採(と)りたてでンめぇどぉ」
って、家々まわったきゃ、
「今日、まんず間に合ってらしじゃ」
どて、断(ことわ)られたど。
今度(こんだ)、大工(だいく)の家さ行ったど。したっきゃ、大工の親方(おやかた)が奥(おく)から出てきて、
「ンまそうなミズだな」
とて、手にとって見たど。したきゃ、ミズの根っコにキラキラ光(ひか)るものがあった。ようく見るど、砂金(さきん)の粒(つぶ)であったど。
挿絵:福本隆男
「お母さん、このミズ、どこから採って来たしか」
「はあ、これだしか。これだば、ずっと奥から採って来たやつだから、大したンめえミズだし。一把(いっぱ)でも買って呉(け)ねべしか」
「ン、買うた。うんだからこのミズ採ってきた場所、くわしぐ教えて呉れナ」
と、言っだど。
したっきゃ、婆、深(ふき)ゃ沢(さわ)コの道だの目印(めじるし)だの、こまかく話だど。したば、親方の眼(まなぐ)ギラギラ光ったど。婆、
「したばって、あすこだば一人では行かれねし。岩(いわ)高くて滑(すべ)るし、滑れば落ちて死んでしまうしな。あぶねくて、あぶねくて。このミズだって、おれの親父(おやじ)ど十人ばかり行って採ってきたやつだしゃぁ」
「はい、ありがとうございました。また今度(こんど)も買うてたもれ」
ど言っで、婆、帰って行ったど。
次の日、親方あ、手下(てした)っコ集めで、沢さ行ったど。何日も歩いで行っで、深ゃ沢さ着いたど。まんず、そこさ何日も暮(く)らす小屋(こや)コこしらえたど。
「さあ、小屋コ出来たし、これから頑張(がんば)って金持ちなるべしナ。勝手(かって)に逃(に)げだしたりしねで、一所懸命(いっしょけんめい)掘(ほ)るべしナ」
どて、みんなして何十日も掘ったっきゃ、一杯(えっぺゃ)ぁ砂金たまったど。
「ずいぶんたまったもんだナ。これだば俺(おら)だちゃ、何年遊(あそ)んでも食うて行けるしゃ。もっと頑張って掘るべし」
「ンだ、ンだ」
どて、みんなの顔、面白(おもしろ)そうに輝(かがや)いだど。
したばある晩げ、手下の一人がみんなの砂金を袋(ふくろ)に詰(つ)めて逃げようとしだ。見(め)っかって、
「こん畜生(ちくしょう)、逃げださねて、約束(やくそく)したろが」
「手前(てめえ)の分だけならまだしも、みんなのもかっぱらってたとはナ」
「おうよ、許(ゆる)せん」
どて、その手下を殺(ころ)してしまったど。
こんなことがあったきゃ、親方の眼、とてもきびしくなっだ。モタモタしていたら俺の砂金コ無(ね)ぐなる、と思て、みんなが寝(ね)てから出口を塞(ふさ)いで、小屋さ火ィつけた。
「火事だあ、逃げろお」
「だめだあ、でられんねえ」
「この仕業(しわざ)あ、親方だべ」
「裏切(うらぎり)り者お」
「この恨(うら)み、きっとはらしてやる」
「熱(あつ)い」
「苦(くる)しい」
どて、口々(くちぐち)に叫(さか)んで、手下っコみんな焼け死んでいったど。親方あ、
「どいつもこいつも、隙(すき)あらば持ち逃げしようとするからだ。ざまぁなしだ。これで砂金コは、全部、俺のものだ」
どて、眼ギランと光らせて、山ば下りてったど。
ンだばってセェ、知らず知らずに手下どもの死んでいく様、思い出しているんだど。
「親方ぁ、裏切ったぁ」
「この恨み、きっとはらしてやる」
「出られんねえ」
「熱い」
「苦しい」
耳の奥でこだまする手下どもの声をふりきろうどして、頭振(ふ)っだら、いづの間にやら大っきな岩の上さ来でで、足コ滑らして、背負(しょ)っでらった砂金コもろとも、深ゃ谷川(たにがわ)さ落ちて行ったど。
どっとはりゃ。
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昔、あったそうじゃ。谷峠に人をとって食ってしまう、大変に恐い猫又が棲(す)んでいたと。強い侍(さむらい)が幾人(いくにん)も来て、弓矢を射かけるのだが、どれもチンチンはねて、当てることが出来なかった。
昔々、小さなお城があったと。そのお城に、それはそれは美しいお姫様があったと。夜更になると、毎晩、立派な若侍が遊びに来たと。お姫様のおつきの者は、どうも怪しいと、はかまの裾に針を刺しておいたと。すると若侍は、その針が刺さって血をたらしながら帰って行った。
「長慶金山」のみんなの声
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