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もめんやのさいなん
『木綿屋の災難』

― 秋田県 ―
語り 井上 瑤
再話 今村 泰子
整理・加筆 六渡 邦昭

 昔、あったとしゃ。
 正月の木綿(もめん)のことを節(せつ)の木綿といったが、おれたちだば、節綿(せつめん)て言ったもんであった。
 ある村に親方(おやかた)の家があって、若い衆(しゅう)を幾人(いくにん)も使ってあったど。

 親方が下っぱの太郎に、
 「太郎、隣町(となりまち)へ行って、節綿買(か)ってこい」
って、言いつけたど。太郎、
 「へい」
って返事して出掛(でか)けたど。したども太郎、節綿ば識(し)らね。

 
 「なんのこったべ。仕方ねぇ、どっかで聞けば分かるべ」
って、忘れねぇように、
 「せつめん、せつめん、せつめん」
って言って歩りてたら、行く手に水ながれてる堰(せき)あるべぇ。
 「おにゃー」と堰またぁだひょうしに、
 「おにめん、おにめん、おにめん」
て、言うようになってあったと。

 隣町に着いて、うらうら町なか歩いて、乾物屋(かんぶつや)に入った。
 「おにめん呉(け)てくなんせ」
 「おにめんな、おらどこでは売ってねぇ。雑貨屋(ざっかや)でも行って聞いてみなっせ。」
 雑貨屋では、
 「おれの家では置いてねぇな。向こうの椀(わん)こ屋にでも行ってみなんせ」
  今度ぁ、椀こ屋さ行ったけぁ、
 「おにめんて、鬼(おに)の面のこったべせぇ」
て、鬼の面売って呉たど。

 
太郎ぁ鬼面(おにめん)持って、うらうら歩いて帰るうち、暗くなってしまったど。お堂こあったので、
 「ここで一休みするかな。だども寒(さむ)い。少し炉(ろ)さ火でも焚(た)くべし」
て、あたり見回したども何も無(ね)ぇわけよ。
 太郎ぁ、今度ぁ、お堂の前の杉の木さ登って、杉の葉っぱとって来て、炉さくべた。
 したども杉の葉だべ、煙(けむ)たぁくて、煙たぁくて、なもかもならねぇども、まんずその中であたっていたど。
 
そこさ、正月の木綿のっこり背負った木綿屋。
 「あい、あい、寒い、寒い。煙り見えたんで寄(よ)らせてもろた。あたらせて呉ねぇべか」
 「あ、あぁ、あたれ、あたれ、おら今杉葉焚いてら」
とて、木綿屋、炉端(ろばた)あたらしたと。
だども、なもかも煙たぁくて、煙たぁくて太郎の方さ煙くれば、太郎下向いて我慢するし、木綿屋の方さ煙行けば、木綿や横向いて窓の外の雪の原っぱ見るわけよ。


 太郎なもかも切なくて、煙ぁ別の方さ回った隙(す)きに、買ってきた鬼の面かぶったど。
 木綿屋、今度ぁ太郎の方見たけぁ、鬼いるわけよ。木綿屋どてんして、
 「鬼だ、鬼だ、おっかねぇでぁ」
て、あとじさって、お堂から転(ころ)げ落じ、四つん這(ば)いになって、手足必死に動かして逃(に)げだど。
 
木綿屋の災難挿絵:福本隆男


 太郎、鬼面かぶったまま、
 「お前、この木綿なんとするのだ」
 「なもいらねぇ。いらねぇ。いらねぇがら助けてけれぇ。鬼だ、鬼だぁ」
って、ぶっ走って行ってしまっだど。太郎、
 「いらねぇていうてぶっ走って行ってしまったんだもの、ここさ置いてもなんもならねぁな。おれ背負って行くべ」
とて、うんしょ、うんしょて村さ戻って行ったど。
親方の家では、
 「太郎なんとしたべえ。戻(もど)って来ねぇ」
とて、心配してたとこさ、うんしょ、うんしょて、木綿背負って戻って来たど。
 したけぁ、
 「これ見ろ、あれ見ろ」
て、家の人達(ひとだ)集(あつ)まって来て、太郎背負って来た節綿見で、たまげでしまったど。
 親方ぁ大した喜(よろこ)んで、皆さその節綿呉て、楽しい正月迎(むか)えたど。
 
 どっとはれ。

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