まさか猿がくれたものがナメクジだったとは( 20代 / 女性 )
― 大分県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところに富山(とやま)の薬屋があった。
富山の薬屋は全国各地に出かけて行って、家々に置き薬していた。一年に一回か二回やって来て、使った薬の分だけ代金を受け取り、必要(いり)そうな薬を箱に入れておく。家の子供(こども)は富山の薬屋がくれる紙風船を楽しみにしていたもんだ。
その富山の薬屋が、あるとき山の峠(とうげ)を越(こ)していたら日が暮(く)れたと。
道端(みちばた)の木の切株(きりかぶ)に腰(こし)かけて夜の明けるのを待っていたら、谷で猿(さる)が「キャッキャッ」とないた。その声がただごとではないふうなので行ってみたら、猿がお産をしていた。難産(なんざん)で母猿が苦しんでいる。
男猿が薬屋に手を合わしたと。薬屋は、背負うているこうりを開けて、
「これはお産が軽うなる薬だ。これをのませるといい」
というて男猿にやったと。
男猿は川の水を口にふくんできて、薬を母猿に飲ませたら、間もなく子が産まれたと。
「よかったなぁ」
というて、薬屋が行こうとしたら、男猿が何だか知らんが冷たいものを袂(たもと)に入れてくれた。
薬屋はいいことしたと思うて気が大きくなり、この山の峠を歩いて行ったと。そしたら、森の中にペカーって火明りが見えた。小屋だった。白髪(しらが)のお爺(じい)さんが小屋の中にいた。薬屋が、
「今晩(こんばん)、ここへ泊(と)めておくれませんか」
というたら、お爺さんは何も言わずにうなずいたと。
薬屋が囲炉裏端(いろりばた)で手枕(てまくら)して横になり、うつらうつらしていたら、大きな蛇(へび)が這(は)ってきて、薬屋を呑(の)み込(こ)もうと口を開けた。
夢うつつながら何となく気配を感じて何かを投げつけようとしたが、何も無かった。そういえば猿が袂にいれてくれたものがあったなぁ、と思い出し、それをつかんで投げたと。投げつけて、また眠(ねむ)ったと。
夜が明けて起きた薬屋はびっくりした。
眠っていたすぐそばに、からだが溶(と)けかかった、死んだ大蛇(だいじゃ)が横たわっておった。
猿が袂に入れてくれた冷たいものはなめくじだったと。
猿は先のことが見えるというから、薬屋が蛇におそわれるのを見こしてなめくじを入れたのだそうな。
小屋は、大きな樟(くす)の木だった。樟の木は化けるから家に使うものではないと、昔の人はいうたもんだ。
むかしまっこ猿まっこ、猿のお尻は真っ赤いしょ。
まさか猿がくれたものがナメクジだったとは( 20代 / 女性 )
おもしろい!( 30代 / 女性 )
旅の薬を見ましたたぬきがまさかおんがえしするとはおもいませんでした。( 10歳未満 )
とても良かった
昔、あるところに若い夫婦者(ふうふもの)が古猫とくらしておったそうな。 あるとき、 夫が山仕事に出掛けたあとで、炉端(ろばた)で居眠(いねむ)りしとった猫(ねこ)がムックリ起きて、大きな目でギロリとあたりを見廻(みまわ)してから、嫁(よめ)さんの側(そば)に寄って来たと。
むかし、馬を引いて荷物を運ぶ、ひとりの馬方(うまかた)がおった。ある日、馬方は山を越えた村へ出かけて行った。塩と魚をたあんと馬に背おわせて、コットリコットリ、峠(とうげ)までくると日が暮れてしまった。するとうしろから・・・
「旅の薬屋」のみんなの声
〜あなたの感想をお寄せください〜