― 秋田県 ―
語り 井上 瑤
再話 今村 泰子
整理 六渡 邦昭
昔、昔なァ。
横手の辺りさ草コぼうぼうおがってえた頃、その中さ、ポツンと二軒の家(え)コ並んでたけど。
一軒な、またぎで、もう一軒な百姓(ひゃくしょう)でシャ、わずかばしの畑コ作って、貧しく暮らしてえたど。
ある夏の暑い日、またぎ、獲物(えもの)コとりにずっと遠ぐの方さ歩(あれ)えて行ったけど。したどもその日ぁ兎(うさぎ)コ一匹見ねくて、たんだ暑い思いしたばりで、すっかりきげんコ悪ぐしてしまったけど。
して、小川のほとりで、腹(はら)も減ったし飯(まま)でも食うべど思て、石の上さ腰(こし)をおろし、握り飯(にぎりまま)かじって、小川の水でのどっコうるがし、ホッとして顔(つら)上げだば、向こう岸さ一人の旅人、倒れでるな見つけだけど。
「かわいそうだごど」
ど思うて、急えで川越えで行って助け起こし、水コ飲ませで、家さ連れで帰ったけど。
気のやさしい妻(あば)も、まめにかいほうして呉(け)たなで、その旅人ぁ見でる中に顔色も良(え)ぐなって元気とり戻したけど。
旅人ぁ、作って呉た粥(かゆ)っコ大層(たいそう)喜んで食た風だのも、その頃またぎの家(え)では米コ少ししか無(ね)ぇものだから、二・三日の間(ま)、夫婦達(ふうふだ)飯(まま)食(か)ねで旅人さばし食(か)せぇで居だけど。
したども、そのうち、とうどう一粒(ひとつぶ)の米っコも無くなってしまったもんだから、仕方無く、隣りの百姓の家さ相談に行ってみだど。
それがら二・三日の間、百姓の家で新しい野菜まで添えて気持ち良ぐ貸して呉だなで、助かだ風だ。
そのお陰で、旅人ァ大した元気になて、表さ歩きに出るよになたけど。
して、またぎァ石ころ投げて獲物(えもの)コとてるな見で、その石さ紐(ひも)コつけでケモノさぶっけでとる方法教えだけど。
それでまたぎァ教ぇらえだままやってみだば、やっぱり獲物コ良ぐとれだ風だ。
したば、隣の百姓、それ見でで、わ(自分)どさも、もっともっと米コ一杯とれる方法教えでけれって、旅人さ頼んだど。
したば旅人ぁ、小川から水引く方法教えだけど。その通りやて見たば、その秋、狭(せめ)え田がら米コ一杯(えっぺ)とれだもんだがら、百姓ぁ大喜びしたけど。
そのうち冬来て、雪コ降て来たけど。
旅人ぁまたぎさ言ったけど。
「田ァ作れ。雪コ解けて春さなってがら初めて雨コ降った時、田耕(たがや)してヨ、次に雨コ降ったらよ、苗(なえ)っコ植えれば良え。水、お前(め)やおれどこ助けで呉た所(どこ)がら湧(わ)いてくるべがら、そごがら引け」
て教えで、ある月の明かり晩げ、あとも残さねで、どこがさ行ってしまった風だ。
挿絵:福本隆男
正直だまたぎ、教えらえだよに、二度目の雨のあど、隣りの百姓がら、枯れがげだ苗っコ貰(もら)て、一生懸命(いっしょうけんめい)植えだけど。
それ見でだ隣りの百姓ぁ、
「なして出来るだってヨ」
て、馬鹿(ばか)にした顔して笑ていだふだども、稲コすくすくど伸びで行って、秋なったば、見事な穂っコついで、大豊作(だいほうさく)になったけど。
またぎぁ、あの旅人、そのあどなんとしたべど思っているどごさ、ひょこっと帰って来たけど。
或(あ)る日、旅人ぁ隣の百姓の畑、あやまって踏(ふ)んづけでしまたけど。
前から旅人どご心良く思て居ながった百姓、プンプンに怒って、旅人どごしつっこく責めだけど。
仲裁(ちゅうさい)に入ったまたぎさまで傷つけでしまったけど。
またぎの傷だば旅人の介抱(かいほう)で、早ぐ良ぐなたふだものシャ。
して、また冬なって、雪コ降て、前ど同じような月夜に旅人ぁ、姿消してしまて、とうとう二度と帰って来ねがったど。
したば、次の年がら、百姓の家の米の収穫(しゅうかく)ずっと少ねくなってしまい、またぎの田の方ぁなんただ日照りの時でも、旅人の教えで呉た水のおかげで干あがるような事ねがったど。
またぎぁ田、どんど切り開いでいって、豊かにくらしたっちゅう話コだシャ。
とっぴんぱらりのぷう。
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むかしむかし、日本に仁王という男がおって、力持ちでは日本一だったと。あるとき、仁王は八幡さまへ行って、「唐の国には、“どっこい”という名の力持ちがいるということだから、わしはそれと力競べしてくるべと思うとるが」と、お伺(うかが)いをたてたと。
「またぎと旅人」のみんなの声
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