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たねもりねっこ
『田根森根っこ』

― 秋田県 ―
語り 井上 瑤
再話 今村 泰子

 昔、昔。
 田根森の人達、薪(たきぎ)が少なくて、大した難儀(なんぎ)してだけど。

 ある冬の寒い日、この田根森さ、みすぼらしい一人の坊主、お貰(もら)いにシャ、やって来たけど。
 ちょうど昼間時だったがら、一軒(いっけん)の家さ入り、一杯の飯(まんま)頼(たの)んだけど。
 芋煮(いもに)でだその家の親父(おど)、坊主見るど直(す)ぐ、人悪く、
 「この芋はナ、石芋ど言ってナ、なかなか煮れねぇ芋だで」
 ど言ったど。
 

 
  坊主、仕方無がら、しょぼんどして、次の家さ言ったば、そこの家では、
 「寒どこ御苦労(ごくろう)さんだなんし。うめぇぐも(うまくも)ねしども今、雑炊(ぞうすい)出来たんし。これでもあがってたんせ」
 ど、気持良ぐ、囲炉裏端(いろりばた)さ迎ゃで、あったけえ雑炊食しぇだけど。
 ンだども、坊主だんだん経つど、囲炉裏の火足りねえのが気になって、とうど親父さ言ったど。
 「も少し、柴(しば)燃やして貰えねんすか。寒くなって来たんすがら」
 親父困ったど思ったど。ンだども、土間がら柴持って来て、一杯くべでやって呉(け)だけど。

 
田根森根っこ挿絵:福本隆男
 
 晩げになって、吹雪(ふぶき)大した強ぐなって、だんだん寒ぐなって来たけど。チョロチョロ燃えでる火っコ前にして、坊主柴を少しずつ、燃している親父さ、
 「もっと一杯燃やしてたんせ。大して寒くて体さこたえるがら。おう寒い」
 ど、言ったけど。

 
 したば親父、本当に悪そうに、
 「このあたりなば、山コさ遠ぐて、どこの家でも薪っコ少なくて、冬の中大した難儀しでるんし。本当に寒い目させで、申し訳ねんし」
 ど、薪に困ってるの言ったどシャ。
 ンだども、坊主温(ぬ)くくなれるくりゃ柴くべでやって呉だけど。
 次の朝間(あさま)、坊主は心のこもったもてなしに心から礼言って、どこかへ立って行ったけど。

 やがて春なった。親父毎日鍬(くわ)振(ふ)って、荒れ地の開墾(かいこん)続けでたど。ンだけども、なんぼ掘っても、土コ、黒いポロポロしたのばかりだけど。親父、ガッカリしてしまって、
 「なんと、これだばなんぼ掘っでも、なんどもならねぇ。なんとしたら良(ええ)べ」
と独り言しゃべったけど。

 
 して、鍬置いで一休みするべど思って、藁(わら)っコや木っコ集めで焚火(たきび)始めだど。したば、いつまでもポカポカど温くいけど。
 親父たまげで良く見たば、どうした事だべ、そのポロポロの黒ぇ土っコ燃えでいたなだけど。親父たまげで、
 「あっ、土っコ燃える。燃える土っコだ」
 ど、とびあがって喜んだけど。
 それがらその家では、どんな寒い時でも暖かく面白ぇ暮らししたどいう事だど。

 芋煮でた家では、
 「どれ、もう煮れた頃だべ」
 ど、箸(はし)刺して見だども、何時(いつ)でも石の様に固ぐて、煮れなかっだどいう事だど。
 先の坊主、弘法大師(こうぼうだいし)様であっだけど。

 とっぴんぱらりのぷう。

「田根森根っこ」のみんなの声

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驚き

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