人は馬になるわけないでしょははは
― 秋田県 ―
語り 井上 瑤
再話 今村 義孝
昔、あったずもな。
ある家の姉(あね)、機織(はたお)ってだど。
キンカラリン キンカラリンって。
兄(あに)、畠(はたけ)さ行って家にいねかったど。天気の良(え)え日であったど。ひげ、髪(かみ)の毛(け)、伸(の)びほうだいの乞食坊主(こじきぼうず)、戸(と)の口(くち)から、
「御免(ごめん)してたい。あまり喉(のど)乾(かわ)ぐがら、水あったら飲(の)まへてたい」
って、言ったど。
機さねまってた姉、見たばあまりきたねぇ坊主だもんで、
「そごにある桶(おけ)に水入っていたがら、そいで良がったら飲め」
「大事(おおごと)御馳走(ごちそう)なったんす」
て、出はって行ったど。
挿絵:福本隆男
姉、なんも気付(きつ)かねぇで、キンカラリン、キンカラリンて管(くだ)コ通してだど。
そごさ兄戻って来たば、なんと、姉、二(ふた)つ耳立てで、首から上馬の顔なってだど。
「おやっ、ンが顔なんだ。その顔なんとした」
「おれ、なにかしてたてか」
「なんだてば、ンが顔、長くなたもんだ。なにがあったてが」
て、言うて聞いたずおん。
「乞食坊主、水飲まへれて来たもんだがら、そごにある雑水桶(ぞうすいおけ)の水飲まひだども」
「大変だ、ンが罰(ばち)あたったなぁ。早ぐ追(ぼ)っかげで謝(あやま)ってくる」
て、兄外(そと)さ行って村はずれまで追っかけたっきゃ、乞食坊主居(い)たったど。追いついで、
「和尚さん、なんと不調法(ぶちょうほう)してすまねぇかったす。姉どご御免(ごめん)してけれ。なんぼかごしゃげるべったってご御免(ごめん)してけれ。」
て、地に頭つけで、願ったわけだ。
「本当だか。ンだらョ、この杖(つえ)で姉コの尻(けつ)どこバッチバッチて叩(たた)け」
て、藪(やぶ)がら杖コ一本取って渡しだど。
兄、大よろこびして家さ戻ったど。
「姉、こさ来てみれ、早く来い」
て言うて、して、尻バチンと叩いだば、よぐなるどころか、手と足に毛生(お)えて、尻尾(しっぽ)ふりふり、
「ヒ、ヒイン」
て啼(な)いだと思っだば、ドンて外さ出て、どごさか行ってしまったど。
これだば、きっとあの乞食坊主、弘法大師(こうぼうだいし)で、罰あたったのだべど評判になって、乞食だの坊主だの来たば、決して粗末にするもんでねってこっだ。
これきって、とっぴんぱらりのぷう。
人は馬になるわけないでしょははは
人がうまになるしんじられない信じない
むかし、あるところにお爺(じい)さんとお婆(ばあ)さんが住んでおったそうな。あるとき、お爺さんは、山へ木を樵(き)りに行った。日暮れになってもカキン…
「馬になった姉」のみんなの声
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