― 山梨県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところに貧乏(びんぼう)な男が二人いたと。二人は借金(しゃっきん)がたくさんあって困(こま)っておった。とうとう、二人揃(そろ)って夜逃(よに)げをしたと。
逃げて逃げて、夜が明けるころには幾(いく)つもの村を通り抜(ぬ)けて、やっと、ほっとしたと。
頭にかぶった笠(かさ)で、顔をかくすように下ばかり見ながら歩いていたら、一人が、
「こうして歩いていて、もし、俺(おれ)が大金でも拾うたら、どうしたもんかな」
と言うた。
すると、もう一人の男が、
「そりゃ決まっとる。俺にも半分よこすさ」
と言うた。
「ばかこくでねえ。俺が拾ったら俺のものに決まっている。お前に分けてやる義理(ぎり)はねえぞ」
「一緒に夜逃げして、こうして旅をしとるんだ、手前(てめえ)独(ひと)りで得をして、連れには分けてくれんちゅうのはよくねえ。そんな欲深(よくふか)じゃあ犬猫と同じだ」
「何が犬猫だ。もう一ぺんぬかしてみろ」
言い出した方も答えた方も腹を立てて、お互いに何だ、何だと言いながら大喧嘩(おおげんか)を始めた。
つかみあいをしていると、そこへ、一人の旅人が追いついて、
「おいおい、お前さんたち、何でそのようないさかいをしている。まあ落ち着け」
と言うて、二人の間に割って入り、二人を道端(みちばた)に坐(すわ)らせたと。
「いったい、どういうわけだ」
とたずねると、男の一人が、
「二人で旅をして来たのだが、こいつは拾った金を、俺には分けてくれんと言うんだ」
と言うた。すると、もう一人が、
「俺が拾うたんだから、俺のものだ。俺がどうしようと俺の勝手(かって)だろ」
と言うた。
「それだから手前は義理も人情もしらん男だと言うんだ。道連れのくせに己(おのれ)だけうまいことをしようとする。そんな法(ほう)があるか」
と言うて、また、つかみかかろうとした。
旅の男は、
「まあ、まあ」
と、両手(りょうて)を広げて二人を分け、
「それじゃあ、わしが何とかけりをつけてやろう。そっちのあんた、拾うた金はいったい何ぼだ。どこにある。出してみなさい」
と言うた。そしたら二人は、口を揃えて、
「いや、まだ拾うとらん」
と言うた。旅の男は、
「何だあ!?まだ拾うてもいないだとお。ありゃあ。拾うてもいないのに争(あらそ)うておったのかあ。あきれたあ。あっはっは、こんな馬鹿奴(ばかめ)ら・・・・・・あっはっはあ」
笑われて、二人の男もやっと気がつき、きまり悪そうにしたと。
これでひっちまい。
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昔、津軽(つがる)の泉山村(いずみやまむら)に喜十郎(きじゅうろう)ちゅう百姓(しょう)いであったど。 秋になって、とり入れが終わったはで、十三町の地主のどごさ、年貢米(ねんぐまい)ば納(おさ)めに行ったど。
高知県安芸郡北川村(こうちけんあきぐんきたがわむら)の野川に、要三(ようぞう)といって、とっぽこきの面白い男がいた。明治の頃に生きて、かずかずのとっぽ話をふりまいて今に語り継がれている。とっぽ話というのは、ほら吹き話のことでこれもそのひとつ。
「金を拾うたら」のみんなの声
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