民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 言葉の聞き違い・言葉遊びにまつわる昔話
  3. 縁起担ぎ

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

えんぎかつぎ
『縁起担ぎ』

― 京都府 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところに大層縁起(えんぎ)かつぎの長者(ちょうじゃ)がおったと。

 ある年の正月、村の和尚さんが正月膳(しょうがつぜん)に招(よ)ばれて長者の家に行ったと。
 たくさんのご馳走(ちそう)だ。和尚さんはあれも食べこれも食べして大いに満腹したと。
 
 お茶になって、女子衆(おなごし)が土瓶(どびん)を持って来た。
 つごうとしたはずみに土瓶を箱火鉢(はこひばち)にぶち当てて、パカーンと割れたと。
 そしたら長者が、正月早々ものをこわすとは縁起が悪い、とカンカンにその女子衆を怒った。

 
 和尚さん、まあまあ、ととりなして、
 「ものは考えようじゃて。ひとつ詠みなんぞをごひろうして縁起をかえてみようほどに」
というて一句、
 「どんとひんとをぶち割って、お手に残るは金のつるなり」
と、詠んだ。
 そしたら長者は、ハタとひざを打ち、
 「金(かな)づるが残ったとは、こりゃ縁起がよい」
と喜んだと。

 端(はた)で土瓶のつるを持って縮(ちぢ)こまっていた女子衆、手をついて和尚さんにお礼をいうたと。
 ところへ今度は別の女子衆が雑巾(ぞうきん)を何枚も持ってきて、あちらこちらにこぼれたお茶をサッサ、サッサと拭(ふ)いたと。


 さあ、今喜んだ長者の顔が変わった。色をなして怒った。
 「この正月のめでたいときに、座敷を雑巾なんぞで汚(けが)すとはなにごとだ。掃(は)く拭くは『福を掃き出す、拭きとる』いうて、正月にはせんもんぞ。縁起が悪い。このたわけ」
と、カンカンだ。女子衆はおろおろしてる。
 
 それを見た和尚さん、
 「いやいや、それは怒るようなことではない。むしろ、めでたいことだ」
というて、にこにこしてる。長者がけげんな顔で、
 「何でですか。昔から正月は掃除はせんでしょうが」
というと、
「そんなら、こんな歌はどうですかな。
 ゾウキンと いう字は当て字で 蔵と金 あちら福々 こちら福々」
と詠んだ。

 
 長者、
 「なるほど、これはおそれいりました。正月早々から、あちら福々 こちら福々。福がいっぱいですか。いや、結構、結構」
と、前にも増して大喜びしたと。

 女子衆たちは、皆々先を争うて和尚さんに般若湯(はんにゃとう)をついだと。
 縁起かつぎのこうしゃくなんちゅうても、こんなもんよ。
 
 むかしのたねくさり。

「縁起担ぎ」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

一番に感想を投稿してみませんか?

民話の部屋ではみなさんのご感想をお待ちしております。

「感想を投稿する!」ボタンをクリックして

さっそく投稿してみましょう!

こんなおはなしも聴いてみませんか?

爺さんと狸物語(じいさんとたぬきものがたり)

明治から大正の頃のようじゃが、池の集落に、宮地というお爺が居って、いってつ者であったと。 楽しみといえば、中央の池に出て、鯉や鮒、鰻などを釣ってきて、家の前の堀池で飼い、煮たり焼いたり酢にもして晩酌の肴にしていたそうな。

この昔話を聴く

宝の小槌(たからのこづち)

 むかし、あるところに貧乏(びんぼう)な爺(じ)さまと婆(ば)さまがおったと。  あるとき、二人が畑で働いていると、空にきれいな虹(にじ)が出た。  「婆さま、あれ見ろや、きれぇな虹だ」  「ほだな、きれぇな虹だなや」  爺さまは、ふと思い出して…

この昔話を聴く

炭焼き長者(すみやきちょうじゃ)

 むかし、ある山里に、ひとりの貧(まず)しい炭焼きの若者が住んでおったそうな。  なかなかの働き者で、朝から晩(ばん)まで真っ黒になって炭を焼いておったと。

この昔話を聴く

現在886話掲載中!