― 山梨県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところに炭焼きの若い衆(し)が二人で、春炭(はるすみ)を焼きに山へ行ったと。
ところが、どこでどう道を迷うたのか、行けども行けども炭焼かまのあるところにたどり着かない。とうとう一度も踏み入(い)ったことのない奥山へ迷い込んでしまったと。
日もとっぷり暮れて、野宿の場所を探していたら、木々(きぎ)の向こうにペカッと灯りが点った。やれよかったと訪ねて見ると、美しい娘がただ一人で住んでいた。
「俺達(おれら)ァ道に迷って困っていた。済まねぇが今夜一晩泊めてもらえんだろうか」
「家には食べ物も、夜具(やぐ)も余分なものは何ひとつありません。おもてなしは出来ませんが、それでよかったら」
「俺達、食う物も何もいらん。ただ家の中で一晩過ごさせてもらえれば、それでええだ」
「それなら、どうぞ」
二人は家の中へ入れてもろうたと。
すると間もなく娘は、
「私は用事があって今から出掛けてきます。お前様方二人で留守居をしていてくれませんか。ついては、家の中の何を見てもかまいませんが、この箪笥(たんす)の引出しだけは決して開けて見ないで下さい」
というて、どこかへ出掛けて行ったと。
二人の若い衆(し)は、初めのうちは言われた通りに留守番をしていたと。
が、いつまで経(た)っても娘は帰って来ないし、たいくつになってきた。
「おい、あの箪笥な、気にならんか」
「うん、しかし、見るなと言われているから」
「そう言われたから、なおさら気になってな。さっきから、覗きたくて覗きたくてならんのじゃ」
「それは俺も同じだ。じゃが約束したしなぁ」
「ちょっとなら、どうだ」
「うーん」
「ちょっとだけだ。ちょっとだけ、なっ」
「そうかぁ、ちょっとだけ、だな。そだな」
二人はその箪笥に手をかけ、おそるおそる一番下の引出しを開けた。
そしたら、その中は広い広い田圃(たんぼ)になっていて、まだ植えたばかりの稲の苗が青々としていた。
二人は顔を見相(みあ)わしてから、真中(まんなか)の引出しを開けた。
そしたら、もうその稲が大分伸びて、ボツボツ穂(ほ)も出揃うという有様であった。
上の引出しも開けたと。
その中には、広い田圃一面に稲がよく実(みの)り、重く垂れた黄金色の穂が、風の吹くたびに揺れて、波寄せている。
二人は驚いて、あわてて箪笥の引出しをしめた。
しばらくして娘が帰ってきた。悲しそうな顔をして、
「私があれほど止めて下さいとお願いしたのに、お前様方ァ箪笥の引出しを開けて見ましたね。もし、私が帰ってくるまで箪笥の中を見ないでいて下さったなら、お前様方のうち一人を、私の聟にしようと思っておりました。二人とも見てしまいましたね」
というた。
炭焼きの若い衆二人は、恥かしさで身を縮こませておったと。
やがて、その家を出た二人は、さほど歩かないのに炭焼きかまの近くに出たそうな。
それからのち、二人は折あるごとに捜したが、二度と再び、あの家もあの美しい娘も見つけることは出来なかったそうな。
それもそれっきりい。
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むかし、ある武士の屋敷にひとりの下男が奉公しちょったと。あるとき、この下男が刀鍛冶の家へ行って、「おらも武士の家へ奉公しちょるきに、刀の一本くらいは持っちょらにゃいかんと思う。すまんが一本作ってくれんか」とかけあった。
「山の一軒家」のみんなの声
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