― 山口県 ―
                                
                                                                                                                                                        語り 井上 瑤
                                                                                                                                                                再話 六渡 邦昭
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                
                            
                             戦国(せんごく)のころ、青海島(おうみしま)に漁師を父にもつ、おしずという八つになる気だてのやさしい娘がいた。
 ある日のこと、この島にきた一人のかりうどが子だぬきを生けどった。これを見たおしずは、かわいそうに思って、お父にせがんで、これを買ってもらい、うら山に逃がしてやった。子だぬきは、何度も何度も頭をさげて山おくの方へ消えた。
 それから十年、戦に破れて、傷をおった一人の若い落武者が、この島にのがれてきた。おしずは親身になってかんごをした。若者の傷はうす紙をはぐようになおっていった。
 
 こうしたことから二人はめおとになった。それもつかのま、追手のきびしいせんさくは、この島まで追ってきた。お父はある夜、こっそり二人を舟で九州へ逃がしてやった。
                            
                
 ある寒い夜のこと、お父はいつものように浜からさびしく家にかえると、ふしぎにも家の中はあかあかとあかりがともり、ろばたの火ももえさかっていた。見ればそこには、十年前のあの子だぬきが、お父の好物のどぶろくをもってきてすわっていた。
 それから毎日のように、たぬきはどぶろくを持ってやってきた。
 あるとき、おしず夫婦は、お父を迎えに、島にかえってきた。お父は、なが年すみなれた島を去ることになった。 いよいよ、舟出の日がきた。それはまん月の夜であった。たぬきは西円寺のうら山にかけのぼり、おや子三人をのせた舟の姿が、はるかかなたに消えるまで、涙をながしながらポンポコポン、力いっぱいに、自分の腹をたたきつづけた。
 それからは満月のたびに、はらつづみがきこえるという。
 おしずたちの船出した浜を しずが浦といっている。
 これきりべったり ひらのふた。
        
                            
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むかしとんとんあったずま。ある村さ、とても働き者の若い衆(し)いだけど。その若い衆、何とかして物持ちになって、長者(ちょうじゃ)さまになってみだいと、常々思っていだけど。
「おしずとたぬき」のみんなの声
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