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えどけんぶつ
『江戸見物』

― 山形県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかしむかし、あるところに在郷太郎(ざいごうたろう)がおった。少々小金が貯まったので、江戸見物に出掛(でか)けたと。

 江戸に着いてみたら田舎(いなか)の祭りよりも人が多くて、忙(いそ)がしそうで目が廻(まわ)る。袖(そで)を引かれて、これ買わんか、あれ買わんかって、どうも油断(ゆだん)出来ない。生馬の目も抜(ぬ)くというぐらいだから、気をつけねばなんねぇ、と思いながら歩いていたら、見世物があった。


 「さぁさぁ、五間に十間の大灯籠(おおとうろう)、見なければ一生の損(そん)、末代の恥(はじ)」
というて呼込(よびこ)んでいた。在郷太郎、
 「そんなにでっかい灯籠、どやって作ったんじゃろ。土産話(みやげばなし)にもってこいだな、見ていこ」
というて、木戸銭(きどせん)を払(はら)い幕(まく)の中に入った。
 そしたらなんと、大きな灯籠どころか小っさな灯籠も置いてない。ただ、幅五間(はばごけん)、長さ十間の道路が切ってあって、前から後(うしろ)から、「通ろう、通ろう」といいながら人が歩いてるだけだった。
 イカサマ振(ぶ)りがあっけらかんとして腹(はら)は立たんかった。
 
 この幕を出ると、向いで、
 「東西東西、世にもまれなる命の親玉、お金は無くとも生きてはいける。これがなければ、生きてはいけぬ。見てお帰り、孫子のために……」
というて呼込んでいた。

 
 在郷太郎、
 「銭(ぜに)が無くても生きて行ける、命の親玉ってなんじゃろ」
というて、気がひかれて、木戸銭を払い幕の内(なか)に入った。
 そしたらどうだ、赤いお膳(ぜん)にゴマヤキメシ、黒いお膳にキナコヤキメシがあるだけだ。
 「やっぱりなぁ、そうでないかと思ったんだ」

 命の親玉の幕を出たら、その隣(となり)で、
 「ひと瘤(こぶ)ラクダ、ふた瘤ラクダ数あるなかに、瘤なしラクダ、大ラクダ、子ラクダ、禿(はげ)ラクダ……」
と呼込みやっている見世物があった。


 「ほう、瘤なしラクダってのは珍(めずら)しいな。見ていこ」
 木戸銭払って幕の内(なか)へ入った。が、ラクダはおろか、動物らしいもの一匹(いっぴき)とていない。
 「ラクダ、どこにいる」
と、大声で聞いてみたら、
 「お客様、ちょっと待って下さいよ、今すぐ出て行きますから」
という。すぐに幕の横のあわせめから、大きい人、小さい人、禿げた人が出てきて、ごろんと横になり、
 「ああ、らくだ」「ああ、らくだ」「ああ、らくだ」
というて、ひじまくらで寝(ね)たんだと。
 在郷太郎、なるほど、畑を耕(たがや)したり、代(しろ)かきしたり、肥(こ)やしかついだりするよっか、楽にはちがいないなぁ、というて、妙(みょう)に感心させられたと。

 どんぴんからりん すっからりん。

「江戸見物」のみんなの声

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在郷太郎、大馬鹿者だね。詐欺ともわからないなんて。

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