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てづまつかい
『手妻使い』

― 山形県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 ”手妻使い(てづまつかい)”という言葉、識(し)っています?
 今ではめったに聞かれなくなりましたわね。相当のご年配(ねんぱい)の方くらいかしら、使うのは。
 手品師(てじなし)のことよ。近頃はマジシャンって言うみたいだけれど。マジシャンと言うよりも“手妻使い”と言ったほうが、インチキ臭くて、でも、だましだまされの妙(みょう)があって、第一あやしそうでいいわよね。
 
 昔、天勝(てんかつ)という手妻使いの一座(いちざ)があったの。地方を廻(まわ)って小屋掛けして、手妻をみせていたのよ。当時、大人気で、天勝一座が小屋掛けすると、近郷近在(きんごうきんざい)はもちろんのこと、遠方からも見物人がわんさかわんさか押かけたそうよ。

 
 評判と看板にたがわず、空(から)の箱から猫(ねこ)を出したり、水の中に花を咲かせたり、雪を降らせたり、その妙技(みょうぎ)は目を見張るばかり。
 やんや、やんやのかっさいのうちに、だんだん出し物が進んで、終り頃に俄(にわ)か雨が降ってきたそうよ。
 そしたら、檀上(だんじょう)の天勝が、
 「トザイ東西(とうざい)、にぎにぎしくお出(い)で下さった皆々様(みなみなさま)に、ぬれられましては申し訳も之無く(これなく)、つきましては、粗品(そしな)ではございまするが、カラ傘一本ずつ、この天勝、手(た)ずからお渡し致したく、おひとりずつ、こちらへお越し下されませ。カラ傘の進呈(しんてい)をもちまして、本日の演目(えんもく)、すべておしまいとさせていただきます。
 お足元、お手元、お気をつけてお帰り下さいませ」
と、口上(こうじょう)を述(の)べて、皆、天勝からカラ傘をもらって帰って行ったのね。
 そうして、半道(はんみち、一里の半分)も歩いた頃、皆が皆びっくりしたの。

 
 今の今まで雨が降っていると思っていたのに、雨なんか一粒(ひとつぶ)も降っていなくって、空には星々(ほしぼし)がいっぱいきらめいているんだって。おまけに、手に持っているのは、天勝からもらったカラ傘のはずなのに、なんとなんと、割箸(わりばし)だったそうよ。
 “手妻使い”というのは、これほど大(たい)したものだったそうよ。
 
 どんびんからりん、すっからりん。

「手妻使い」のみんなの声

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